「何だ貴様らは!救助の邪魔をする気か!!」 犬童三幸と霜桐雪奈がフロスベルグモンと交戦を始め数分後、灰かぶりの城へと続く一本道はアイスデビモンやパンジャモンのような寒冷地帯に住むデジモン、アウルモンやモッキンバーモンなど、飛行するデジモンの群れに塞がれている。 フロゾモンが威嚇のグラシエイトミサイルを放つも、群れは微動だにしなかった。 「待伏はここだったか」とミミックモンが金の目を細めると、ソフィーは唾を飲み込み、桜色のデジヴァイスを取り出した。 「こんな所で時間を取られたくないわ。アレを使っちゃいま……あっ」 その直後に篤人が迷わず、ジャンクモンは一瞬考え、歩み出た。 「アツト。流石にソフィーちゃんとフロゾモンの力は借りとけ」 ジャンクモンの提言に篤人は、まだ拭えない怒りの目を彼と合わせないまま、首を横に振った。 「待ちなさいアツト。あの数相手に本気で……」 「ごめん、ソフィーさん」 篤人は制止するソフィーにも顔を向けず、デジヴァイスを取り出し、敵の群れを睥睨した。 「ちょっと、八つ当たりさせて」 冷静に努めきれない声音で、篤人はジャンクモンをデストロモンまで進化させ、雪面が抉られるような咆哮と共に、敵の群れに向け砲撃を始めた。 吹雪と曇り空の中、紫の巨竜から放たれる三連装砲による光弾の驟雨を浴びた敵が、麓の集落まで届くような爆発と轟音を伴い体を四散させ、0と1と化し召されるように空へと昇る。 「完全体も混ざっているのだぞ!?あいつ、こうも容易く……!」 「それだけ強い望みから果たした進化……奇跡を望むための力、か」 フロゾモンは僅かに後退り、ミミックモンは山ごと断ち割るように横薙ぎで放たれたジャガーノートブラストを受け、止められない力の中で叫びすら残らず消えて行く敵を、複雑な目で見据える。 「……C'est terrifiant」 その凄惨な光景を、どこを見ているかも分からない目で引き起こした篤人を、ソフィーも硬い表情のまま目を逸らさず見続けた。 ──── 「すまねェみんな。こいつも少しは落ち着いたみてェだ」 進化から戻り息を乱すジャンクモンの刺す視線に、篤人は無言で目を合わせると、ジャンクモンは小声でくぐもり、黙った。 気持ちは、晴れなかった。敵を倒せば一先ずは消えると思った怒りは、風見のデジヴァイスを握る鳥谷部の我が物顔の笑みが脳裏に映り、すぐにまた激情が満ち溢れていく。 世界を救うために築いてきた道程の成果が、世界を奪うための力として使われる。言葉を並べ立てるだけで沸き続ける怒りの中、篤人は自分のデジヴァイスと紋章に目をやった。 自分が死んでいたら、これも使われた。今は三幸の持つ勇気の紋章とデジヴァイスもだ。もし、ここで自分か三幸が倒れることが、あれば。 「何を考えちまった、アツト」 ジャンクモンの咎める声に気づき、篤人は雪面と吹雪がはっきりと見えた事に気付くと、ジャンクモンへと、顔を向けた。 「いいか……奴らにムカついてんのは俺様も同じだ」 はっきりと見えるパートナーの顔と同じ気持ちに、篤人は少し楽になったような気で、彼の目をはっきりと見て、話せた。 「……その言葉だけで、嬉しいよ」 「なら一旦怒りは引っ込めとけ。本番はこの先だからな」 唸って感情を堪えるジャンクモンに、篤人は未だに湧き続ける激情を放り出そうと、大きく息を吸って、一気に吐いた。 「ワタシの切り札を使わなかったのは良かったかもだけど、貴方、大分力を使ったんじゃない?」 逡巡しながらのソフィーの問いに、篤人は迷いなく背嚢を降ろした。 「ジャンクモン。幼年期まで戻って、リュックに入って少しでも休んで」 「お前、荷物どうする気だよ」 「捨てる。少しでも君を休ま……」 背嚢のチャックに手を触れた瞬間、篤人の腹の虫が鳴った。 「やはりお主も、消耗しとるな」 「ち、違……」 髪を引かれたように理性が引き戻される。篤人は羞恥で崩れた表情と、否定するために目を合わせたミミックモンは、どこか安心した顔をしていた。 篤人はすぐ目を背け、再びチャックに手をかけようとすると、ソフィーが篤人の手を強く掴み、篤人は手を止め、彼女に顔を向ける。 にこやかに、そして褐色の肌と碧眼に憤りの赤い火が見える満面の笑顔で、ソフィーは掴む手を決して緩めず、強い声音で話し始めた、 「メゾン・カンブルランの娘の前でお腹鳴らして、格好つけれるなんて思わないで頂戴?」 メゾン・カンブルラン。その名詞に篤人は記憶を辿ろうとして、取りやめた。 「……聞き違いだよソフィーさん。ほら、風、強くなってきたからさ」 掴まれた手を払わず、背中に外気とは違う冷たさを感じながら、篤人はソフィーから目を逸らさず話すと、彼女はため息をついた。 「貴方、かなり力を使ったのよ?それで急いで、どうするワケ?」 「ソフィーの言う通りだ。我らが力を使わなかったのは幸いかもしれぬが、城でも戦いになる。 この中で一番力があるのは、お主なのだぞ篤人」 苦渋も感じる二人の声音から、篤人は今もまだ、鳥谷部と戦っている三幸や雪奈、灰かぶりの城にいる被害者達、そして雪奈から託されたディーアークの持ち主のことが頭に浮かんだ。 続けて、ジャンクモンを見た。彼も自分の愚かな八つ当たりで、消耗させてしまった。だからこそ、自分の空腹に構わず休ませようと、背嚢で背負うつもりであった。 (……待て、ソフィーさん達がどうなんだ……?) それを思った篤人の空いた腹はすぐに決まり、篤人は無理矢理和らげた表情と声で、彼女達を見た。 「ソフィーさん、ミミックモン。君達は「よいか、片桐」 言い切る前、そしてジャンクモンが咎めようとする前に、沈黙していたフロゾモンが歩み出て、篤人の肩を掴んだ。 「フロゾモン?貴方、何を……」 「吾輩は貴様のことは僅かしか知らんし、全て知るつもりもない。だが急ぎすぎだ馬鹿者め」 肩を掴み蒸気を吹き上げ凄むフロゾモンに、ジャンクモンとミミックモンが構える。篤人は彼らを手で制し、目を逸らさず無言で返した。 「正直、今すぐに貴様をぶん殴って休ませたいが、特別に我慢してやる」 フロゾモンは血の通っていないはずの目を血走らせ、更に肩を強く掴む。篤人は痛みから顔を顰め、その手を払い除けようもしたが、なぜか話を聞くべきだと思い、手を動かせなかった。 「だから聞く。貴様、何故そんな無理をして、あんな連中と戦おうとする」 「仲間の仇討ちだよ。その上で、今回は城に囚われている人を救うため」 篤人にとっては特に悩む必要の無い問い掛けを躊躇無く返すと、フロゾモンは一瞬手の力を緩め、また強くした。 「奇跡的に生き残ったというのに何故だ!何故、貴様はまだ戦おうとする!!」 「あのまま生き長らえるのが、戦って死ぬより嫌だったからだよ」 またしても悩む理由もない問いに篤人は即座に答えると、フロゾモンは手を離し、沈黙した。 「言ったかな。犬童さんが持ってる紋章とデジヴァイスは、仲間が消える前に託してくれた物だって」 「……ミユキから聞いたわ。彼女、すごく大事なものを託されたって言ってた」 掴んでいた手が離れた肩を何度か動かし、篤人はソフィーの答えに表情を緩めて続けた。 「だから僕にとって、あのデジヴァイスと紋章は仲間の形見。 それを仇が我が物顔で、救おうとした世界の侵略のために使ってる。頭にくるのは当然だよ」 「俺様だってマジギレしかけたんだ……だったらこいつがキレてと、無理はねぇ」 ジャンクモンが篤人の言葉に、同じように怒りを見せた。再び湧き上がった怒りを、篤人は軽く息を吸って抑え、フロゾモンに振り向いた。 「フロゾモンの言う通り、奇跡的に生き残った。 でもね、それっぽっちの奇跡はクソ喰らえだ」 奇跡の紋章取り出し見せながら話す篤人に、フロゾモンは再び、沈黙した。 「ここからバロッコを救うのが僕の望む奇跡だ。 そのために何でもす……いや、し始めたんだ」 篤人は三幸の顔を思い浮かべ、募る罪悪感から歯を軋ませ、首を横に振って無理矢理振り払ってから、ジャンクモンに声をかける、 ジャンクモンは嫌そうな顔を見せてから、空き缶の大砲から錆びたメダルを撃ち出し、受け取った篤人はそれをソフィーに見せた。 「ソフィーさん、休むか行くかはコイントスで決めよう。言い合うより、こっちの方がいい」 「……ま、仕方ないから、良い事にするわ。 なら、決めるのはワタシでトスは「待て貴様ら」 沈黙していたフロゾモンが割って入ると、頭部のハッチに空け、ガラスの靴を取り出した。 「C'est pas vrai!それサンドリモンの城への招待状!!」 「フロゾモン、お主……」 「先程言ったな。吾輩はサンドリモンの許に居たと」 ミミックモンの視線に、フロゾモンは目を背けようとしながら低く言った。 「フロゾモン。持ってるなら何で出さなかった? それの確保が最優先だったんだぞ」 「定員1名の帰還用だ!あの人数を送れるか!」 少し荒い語気のジャンクモンの問いに、フロゾモンはやはり目をそらし、荒げた声で答えた。 「なら何で、今になって出したのさ」 「……遭難者救出のためだ!吾輩はフロゾモンだぞ!今更聞くことか!!」 やはり目は合わせないフロゾモンに、篤人も何も言わないことにしたりフロゾモンは咳払いと共にガラスの靴を指差し、また声を荒げた。 「ともかく覚悟は決まったが……これはサンドリモンの配下が帰還するための招待状! 定員は1名!この人数は連れていけんぞ!!」 「人数ならミミックモンが解決出来るわ。 前科もないのに囚人の気持ちも味わえるケド」 ソフィーが笑ったまま即答し、ミミックモンが唸って目を細めた。篤人はそこで、アリーナで彼女が黒い煙から少しずつ現れたことを思い出し……ミミックモンから、目を逸らした。 「僕は捕まった経験あるから平気」 「こっちを見て言え篤人!そこまで窮屈ではないぞ!!」 露骨に目を逸らした篤人に、ミミックモンは鉄球を雪面に叩きつけ抗議を始める。自分が口にした言葉とミミックモンの行動に、そ湧き上がっていたものが、勢いを弱め少しずつ抜けていき、不自然にでも和らいだ表情が作れるような感覚が蘇った。 「問題は解決したなら……なァ、アツト」 ジャンクモンの訴えのある視線に、篤人はすぐに招待状を掴みたい気持ちを堪え、言いづらそうに、目線を誰にも向けず、話を始めた。 「えっと……フロゾモン、ここから灰かぶりの城までどれくらい?」 「歩くなら10分くらいだぞ」 「なら、さ、少しだけ休んでからで、いいかな。 さっきので、ジャンクモンが…いや、僕もなんだけど……疲れちゃって……」 まだ逸る気持ちと申し訳で口籠りながら話す篤人にソフィーは笑い、背嚢からキューバサンドを二つ取り出すと、ジャンクモンと篤人に差し出した。 「カフェオレは全員生還してからのお楽しみよ」 「……僕の分は、砂糖多めで」 ソフィーが片目を瞑り「この甘党さん」と篤人の額を指で触れ、皆にキューバサンドを渡し始め、篤人はそれを見ながら、大口で齧り付いた。 ──── 薄暗い城の広間、紫の影がガイオウモンへと迫り、二振りのくすんだ金色の剣【伊由太加の剣】を横一文字に振るう。 ガイオウモンも二振りの刀【菊燐】で弾き、紫の影の正体、カラテンモンはそこから小さく飛翔し、二振り目を振り下ろす。兜目掛けての一撃もガイオウモンはもう一振りで防ぎ、カラテンモンを弾き飛ばした。 舌打ちの後、空中で立て直したカラテンモンの動きに生源寺は目を凝らす。スピードと剣速は負けているが、ガイオウモンは大きく動かず対応している。 剣の勝負は問題無い。他はどうか。そう考え、百蓮は神田颯乃に視線を移した。 「剣では攻めきれないか……」 肩で息をし、恐らく本来の所持品ではない王子様候補に与えた不良品のD3を、彼女は忌々しげに握りしめる。 それでさえ無ければ、百蓮もまたそう思い、視線をカラテンモンに戻した。 「……ハヤノ!こうなりゃこじ開ける!」 「……それしか、ないか!」 疲労が見えるカラテンモンの言葉に、颯乃は僅かに逡巡し、不良品に力を送り込む。 「動いてきますよ」とガイオウモンに告げた百蓮は、更に速く駆けたカラテンモンの影を目で追つう、打つ手の吟味を始めた。 くすんだ金色の剣を、叫びながらの二刀同時の振り下ろす。ガイオウモンも叫び返しら腰を据えて剣を受けて鍔迫り合いに持ち込んだ。 「……やっぱり、止めてくれたな!」 その直後、カラテンモンが黒翼を羽ばたかせ、風が渦巻き始める。 あれなら対応出来る。百蓮は安堵して息を吐くと、バイタルブレスに力を送った。 「吹き飛べ!衝撃「悟ってこれとは生温いわぁっ!」 ガイオウモンは送られた力に任せ、翼を羽ばたかせるカラテンモンを床に叩きつけると、その勢いのまま頭部を踏み潰しにかかった。 カラテンモンは、咄嗟に頭を動かし躱す。踏み抜かれた灰の床から土煙とガラス片が舞い上がる中、ガイオウモンが刀を振り下ろし、カラテンモンは床を背にそれを防ぐも、金の剣が弾き飛んだ。 二撃目をカラテンモンは両手で堪え、吹き飛んだ剣を一瞬見た。金の剣が黒紫の気を纏いひとりでに震え始めたのを見て、百蓮は声を張り上げた。   「ガイオウモン!弾き飛ばした剣が来ます!」 「気付かれたか……ハヤノ!」 カラテンモンは苦い顔で、咄嗟に剣を颯乃の元へと飛ばした。パートナーと同じ苦い顔で、彼女は剣に手を伸ばそうとした。 「神田さん。それを拾ったら貴方から殺します」 百蓮は淡々とした声で、剣を拾おうとする颯乃を睨む。その言葉に合わせ、ガイオウモンはカラテンモンを壁際まで蹴り飛ばし、【菊燐】を合体させた大弓を彼女に向けた。 「神田殿。貴殿も剣の遣い手ならば、どうなるか言うまでもなかろう」 ガイオウモンは言い切ると、大弓に人魂のように青白く妖しげな輝きを集め、矢の形を作り上げた。 矢を向けられた颯乃は、歯を軋ませながら剣ではなくデジヴァイスを握ると、ガイオウモンは大弓を立ち上がろうとするカラテンモンに向け、放った。 薄暗い城内を青白い一閃が照らし、矢はカラテンモンの右肩に突き刺さる。彼は低く叫びながら、自身を縫い付けた矢を引き抜こうと懸命に手を動かす。 「カラテンモン!まだ終わって……うっ……」 颯乃が、不良品を握ったまま、膝から崩れかけるのを堪えた。百蓮は小声で「不良品でさえ無ければ」と呟くと、演習とこの戦いを振り返ると、彼女の【価値】を鑑み、ガイオウモンに視線を送った。 「不良品でこれだけ戦えるテイマーを討つのは惜しいですね」 ガイオウモンが再び大弓に青白い光を集める。やめろという叫びに遅れて、金属音が鳴る。剣を拾い上げ走る颯乃に構わず、ガイオウモンはカラテンモンの頭部を目掛け、大弓を引き絞った。 「この一矢で首ごと吹き飛ばしてくれる!燐火……むっ!?」 矢が飛ぶ瞬間、射線上に現れた薄青の穴からカボチャの馬車が現れ……馬車から、ミミックモンが降りてきた。 「招待状?転送は切っているはずですが」 百蓮は突如現れたミミックモンに不審な目を向けると、ミミックモンは無言でデッドショットの形状をマミーモンの【オベリスク】へと変化させ、百蓮に向けた。 「……何奴!!」 百蓮は、無言の殺意に息を呑んだ。ガイオウモンが大弓を刀へ戻し射線に割り込むと、乱れ撃たれる銃弾を防ぎながら、ミミックモンへと斬りかかる。 ミミックモンはそれを檻の中から現れた赤い腕と赤熱した剣で受けた。 何をロードした個体かを百蓮が思いつく間もなく、縫いつけていた矢を抜き終えたカラテンモンが駆け、体を沈めて逆袈裟で斬り上げにかかるも、ガイオウモンが一撃を既の所で防ぎ、両者を弾き飛ばし、ミミックモンを睨みつけた。 「この狼藉者が!灰かぶりの城に何用だ!!」 「狼藉者は貴様らであろう。ひと屋の手先が」 憤るミミックモンが檻を開くと、吹き上がった黒い煙が、複数の人間やデジモンの形を作り始めた。やがて煙の一つが、百連が何度も戦った少年の形になり始めると、舌打ちが出た。 相変わらず、不愉快なまでに運の良い子。無意識のうちに呟いた百蓮は、煙から輪郭を帯び、やがて本当に人間となったオーバル型の眼鏡をつけた少年を、忌々しげに睨みつけた。 「……久しぶりじゃないですか、片桐」 「あんたもいたのかよ、生源寺」 ──── 「城の人達も、黙ってたわけじゃねェみたいだな、アツト」 バロッコに誘拐されて以来何度も戦ってきた、痛々しい傷がついた顔の女……生源寺百蓮と進化しているパートナーのムシャモンであろう竜人の鎧武者が一番に視界へと入り、篤人はやはり強敵が居たと表情を硬くした。 ガラス細工や赤い絨毯で彩られてるにも関わらず、城内は外の寒さからか、どこか薄暗く冷たい。それでも不要となった防寒着を脱ぎ捨て、いつもの詰め襟姿へと戻った。 「狭かったでしょアツト。フロゾモンを間に挟まなければ美少女と密着した二人旅だったのにね?」 「それだとまずいから、片桐が吾輩を間に挟んだのだろうが!おかげで相当狭かったぞ!!」 緊張感を解すためのソフィーのからかいに、篤人は僅かに耳に熱を感じながら、再び周りを見渡すし、カラテンモンと剣を握った黒髪の少女を見つけ、それから詰め襟のポケットに入れたディーアークが、強く反応している事に気が付いた。 「……君達は、味方でいいのか?」 希望が混ざった剣を握った少女の問いに、篤人は雪奈から聞いたディーアークの持ち主の名をすぐに思い出し、急いで彼女に近寄った。 「神田颯乃さん、だよね。これ」 「私の名前を何故……ってそれは私の!」 篤人が答える代わりにディーアークを差し出すと、颯乃は驚嘆の声を漏らし、奪い取る勢いで受け取りるの、それまで使っていたであろう桜色のD3を放り投げた。 「……たくさん聞きたいこと事があるが、まずはありがとう……君達は?」 「僕は片桐篤人、彼女はソフィー・カンブルラン……とにかく霜桐さんと一緒に、君も含めてここにいる人達を助けに来た」 霜桐の名に颯乃は大きく目を開くと、落ち着こうとするために大きく息を吐いた。 「ディーアークが戻ったならこいつにも……」 「Euh……いや、それより」 颯乃が握っていた剣を受け取ったカラテンモンが勇んでガイオウモンに斬りかかるのを、思いついた様子のソフィーが止めた。 「どうして止める?」とジャンクモンが尋ねるより先に、ソフィーが防寒着を脱ぎ普段から着る薄紫のチェニックと白いロングスカートの姿に戻った。 「聞いてハヤノ、カラテンモン。 セツナはワタシ達の仲間と一緒に……トリヤベとかいう……多分、すごく強いテイマーと戦ってる」 「あの小綺麗なオバサン、城を出て迎え撃ちに出たのか……なら急いでこいつを」 「だからこれ、ちょっと大きいけど」 ソフィー微笑みに、颯乃に自身着ていた防寒具とデジヴァイスの中から取り出した回復ディスクを差し出した。 篤人はソフィーの行動に一瞬驚き、その後にすぐパートナーを見渡し、彼女の考えを多分、理解した。 「この城を出たらずっとまっすぐ。そのままセツナ達の所まで行ってあげて」 颯乃は表情に喜びの色を見せ、防寒着に袖を通そうとしたが急に手を止め、喜びから現実の打破を優先した苦い顔で、扉の一つを指さした。 「……他に囚われたテイマー達が、サンドリモンを解放するために地下室に向かってる。 流石にみんなを放ってはいけない」 「地下には吾輩が行く!この城の主を助けに来たのも目的だからな!」 フロゾモンがすぐ、指さした方向へと向かいキャタピラを駆動させた。 「黙って行かせるとでも……」 生源寺の視線がフロゾモンに向かうと、ガイオウモンが再び大弓を引き絞り、フロゾモンに狙いを定める。青白い矢が放たれようとした瞬間、ミミックモンのデッドショットから伸びた包帯が腕に巻き付くと、ほんの一瞬手元が狂った矢は、フロゾモンではなく近くに置かれたガラス像を射抜いた。 「小癪な!」と叫んだガイオウモンが矢をミミックモンに放つと、篤人は即座にジャンクモンをデストロモンへと進化させ、両腕の砲撃で放たれた青白い矢、燐火撃を相殺した。 「この威力……確かに、ライジンモン殿も打ち負かされよう」 「お前が究極体だとしても、弓が大砲に勝てるもんかよ!」 デストロモンの煽りにガイオウモンは眉一つ動かさず、大弓を二振りの刀へと戻し構え直した。 「神田さん。ここは任せて……というより……僕達の仲間と霜桐さんを、助けて欲しい!!」 「理屈の話でもあんだハヤノちゃん!俺様もミミックモンも、早く辿り着く自信がねェ!」 篤人とデストロモンの言葉に、颯乃は城の出入り口に目をやった。 「カラテンモン、いけるか?」 「行くさ。ソフィーちゃんみたいな美少女に頼まれたら、疲れなんてとっくに消えたよ」 防寒着に袖を通した颯乃が、パートナーの軽口に呆れたように眉を動かし、回復ディスクを与える。 カラテンモンは即座に出入り口を固めるユキダルモン達の許まで駆けると瞬く間に切り伏せ、颯乃も迷わず駆け出した。 「二人とも……ありがとう!! 君達の仲間も絶対に助ける!!」 「お願いね、王子様」 振り向いた颯乃がソフィーが笑って手を振り見送ると、篤人は生源寺とガイオウモンを見据えた。 「……止めなくて良いのかよ、生源寺」 「追いつけない相手に構うヒマはありません。こうなったなら、あなた達を仕留めるのが最優先です」 煽るための酷薄な言葉に篤人は睨みで返すと、生源寺は肩を竦めて大きなため息をつく。 それから言葉とは裏腹に、目の裏に暗い熱が宿るような目で、篤人を睨み返した。 「奇跡的に拾った命をドブに捨てるバカな子のせいで、予定が狂いましたよ。 あのまま、帰る手段探しにでも、切り替えれば、良かったというのに」 「最初は俺様もそうさせたかったが、このバカは聞きやしねェ。ま、そんなアツトだから奇跡が起きる俺様は思ってるがな」 どこか増していく熱を堪える様子で睨んだまま歯切れ悪く話す生源寺に、デストロモンは当然のように答えると、篤人はパートナーに笑いかけてから、再び生源寺を見据えた。 「あの先、死んだみたいな生き方するより、死ぬことになっても戦った方が、僕にはずっと良い」 「っ!ならここで死になさい!!」 敵に向ける苛立ちとは別の何かを含ませた表情で生源寺は吐き捨て、バイタルブレスに力を送り込まれたガイオウモンが床を蹴り、駆けた。 ──── 「……百蓮ちゃんから連絡が来てたわ。 片桐君達が招待状を使って城に来て、颯乃ちゃんとカラテンモンがここに向かってるみたい」 「なんと……こうなると【棺桶】で仕留められなかったのが痛手ですな」 「あれには自信あったんだけどねぇ……あの子が間に合ったら、流石に難しいわね」 巻き起こした吹雪の中、フロスベルグモンは霜桐雪奈達が作り上げた氷壁から意識を切らず、戦い最中に送られた連絡に鳥谷部と共に目を通す。 想定外が、連続した。それでも打てる手を打ち、霜桐雪奈と犬童三幸を追い詰めた。最後の詰めを誤れば、神田颯乃とも戦うことになる。 消耗した現状では、フリージングレイもそう何発も使えない。あの壁に打ち込んだ所で、すぐに手を打たれるのは、目に見えている。 「どうしようかしら」と右手を気にした様子で、考えようとぼそぼそ呟く鳥谷部に、フロスベルグモンはもしやと考え、無言で彼女の手袋を抓んだ。 「母上、手袋を外してくだされ」 「っ…イヤよ。寒いじゃない」 「外してくだされ」 一瞬、言いにくそうにした鳥谷部に対し、間髪入れずフロスベルグモンが咎めると、鳥谷部は渋々と右手袋を外す。 彼女の指は、第二関節までが無数の切傷により薄っすらと血で滲み、そして青白く変色していた。 「またですか母上、何も言わずに、魔術の消費を肩代わりするのはやめていただきたいと……」 「……あかぎれに比べたら大したことないわよ。 第一、あなただけ体を張ってるのに」 「大有りです!終わったら即、本部の診療所へ行くように!某も吹き飛ばされた足を診てもらう故!」 即席で作り上げた氷の義足を上げながらのフロスベルグモンの叱責に、鳥谷部は渋々と同意して再び手袋をつけた。 選ばれし子供・風見愛為理のデジヴァイスから読み取り会得にした魔術の中に、消費する力のほんの一部をテイマーが肩代わり出来る物があった。 その代償は非常にシンプルで、テイマーが傷つくこと。風見もまた、度々パートナーの消費する力を、肩代わりしていたようで、鳥谷部もそれを身に着け【またしても】行使していた。 (幾らか消耗が減っているのかもしれぬが……) 果たして、自分のテイマー……母は、ここまで身を削る人であったか。フロスベルグモンは疑問を感じ、すぐに振り払った。 「死に物狂いの反撃が一番怖いし……ヴォルテクスドラモンは……論外よね」 「はい。結局殆ど制御できなかったせいで、火山を変えてしまいましたからな」 フロスベルグモンは城の主であったサンドリモンとの争いを苦い顔で思い出すと、鳥谷部は思いついた様子で、防寒着のポケットから飴を取り出し、フロスベルグモンに差し出した。 「ならルインリバーヴで行きましょ。 今のうちに飴、舐めときなさい。貴方の好きオレンジバナナミルク味だから」 やはり思う所があるのか、氷壁を見ずに話す鳥谷部の言葉に、フロスベルグモンは飴を啄み、しばらく口内で甘みを味わい飲み込むと、咳払いをした。 「……やはり歌う前は、この飴に限るな」 ──── 「フロゾモンには頭が上がらないね。再生ディスクが本当に必要になっちゃった」 「……後でしっかり、あいつに礼を言うよ」 ホワイトアウトを凌ぐために咄嗟で作り上げた氷壁の中、粗いヤスリで脳と眼球の裏を擦られるような痛みを堪え、雪奈は再生ディスクを使い、クリスペイルドラモンとヘルガルモンの昇華し失った片腕を再構築する。 自分と三幸も未だに頭痛に苛まされ、動くのも少し苦労する。とにかく体勢を整え、策を練る。痛む頭では、それ以上のことは決められなかった。 「……この状況は私のせいです雪奈さん。迂闊な考えでした」 「それを言うならわたしにも責任はあるよ。 あの【鳥籠】には自信があったんだ。だから、あんな破られ方するなんて……」 頭を抑え唇を噛む三幸に、雪奈も痛む頭で思い返す。素早く動き、すぐ姿も眩ませるフロスベルグモンを捕える【鳥籠】は、乾坤一擲の策だった。 それを片足こそ奪えど、一手で覆された。自分も三幸も死が見えた苦しみを味わい、パートナー達は片手を失った。 白い煙を、あの薄灰色のドライアイスを思い返す度に蘇る息苦しさと背筋に沸いた嫌な湿りを堪え、雪奈は壁の外を考えた。 ホワイトアウト。数メートル先も見えず起伏も分からない、白い闇の世界。 自分達は見えない上に、まともに動けない。打てる手はなんだ。吹雪で失われる熱と未だ痛む頭から生まれる憔悴の中で、雪奈は必死に思考を続けた。 「一か八かで討って出ても……何も見えない中、あのドライアイス光線を打たれたら……」 「今度こそ終わる。それだけは絶対にやめろ」 三幸とヘルガルモンの呻くような言葉に、雪奈も一瞬で背筋が凍てついた。あれだけは絶対に受けてはいけない。かすることすら許されない。受けたら最後、二酸化炭素と化して、消える。 最悪の想像が過った雪奈の目の前に、フロスベルグモンの推し量るような金の目と、鳥谷部の細目が思い浮かぶ。 奴らはどこにいて、何をしようとしている。 今のところ、仕掛けてくる様子は無い。単にヘルガルモンが吹き飛ばした片足の治療中か、それとも、温かいスープでも飲んで、この中で苦しむ自分達を嘲笑っているのか。 「……あいつら!ホントにムカつく!!」 そう考えついた瞬間、雪奈は一気に湧き出した苛立ちから、思いっきり叫んだ。 「せ、雪奈……?」 「……ごめんごめん。フロスベルグモンのあの目を思い出したら、無性にムカついちゃってさ」 突然の叫びにクリスペイルドラモン達は僅かに後ずさったが、すっきりとした声音の雪奈を見て、安堵を始めた。 「……私も気持ちは同じですわよ、雪奈さん。 見つけたら八つ裂きにして、鍋で煮込んで城の皆様に振る舞ってやりたいくらいですもの」 「……お前は怒りすぎだ、ミユキ」 青筋を立てながらも拳を握る三幸の言葉に雪奈は顔を引き攣らせて頷くと、すぐに表情を落とした。 「でも、どうすれば良いか全然思いつかないよ。 ここまで吹雪が強いと、カロスディメンションを強化しても無理だったし」 「……見えなくても、居る場所が何かで分かればいいんですが」 先程の威勢を現実で失い、視線を落とす三幸の言葉に、雪奈は一瞬眉を動かした。 「居る場所か……探知機か?」 「どう探るんだ?データ量とか熱か?」 「……多分、そうなると思うよ。クリスペイルドラモン、ヘルガルモン」 雪奈は杖を支えに、ゆっくりと立ち上がる。少し蹌踉めきながら、思考の中に薄ぼんやりとした物が出来始め、それを少しずつ、形にしていく。 「とにかく場所が分かれば、手は打てるかも。 流石にここからは、片桐くんやソフィーちゃんが来てくれるまで凌ぐ方向になるけどね」 「……篤人さんなら、雪奈さんのお友達も助けて絶対に来てくれますとも」 三幸の言葉に、雪奈は堪えた気持ちを解すために真っ白な息を吐くと、膝を叩いてすぐにまたイメージを組み立て始めた。 「だったら私達は、異変が起きたらその、対応……を……?」 「……何だ、この声?」 雪奈の頭の中で徐々に探知機が形作られる中、吹雪の音で遮られない耳通りの良い高い声が、どこからか聞こえ始めた。 「……いい歌ですわね、去年のクリスマスコンサートを思い出しましたわ」 「……ダークエリアじゃ聞けねぇな、こういうの」 三幸とヘルガルモンが、流れてくる美声に表情を緩めて聴き入り始めた。雪奈も猛吹雪で遮られることなく透き通る美声が耳から脳へと届いた瞬間、ドーパミンだけがじわりと漏れ始め、いつしかイメージが止まってしまった。 「お、おい雪奈……確かにいい声だけど、聞き入る暇は……」 「あっ、ごめん。でも、これすごく良いっ……こ……っ!?」 クリスペイルドラモンの制止を受け、雪奈は止まったイメージを動かそうとした瞬間、両足の骨に亀裂が走ったような痛みが走り、杖を握ったまま雪面に膝をついた。 「っ!!なにこ……れ……?」 突然の痛みは、声を聞いてからじわりと流れ始めたドーパミンで、心地よい痛みと変化し、雪奈は自分の表情が不自然に緩み始めたのを感じた。 「全員耳を塞……っぁ……!」 警告する間も無く、クリスペイルドラモンも膝をつき、穏やかな顔で座り込んだ。その音で雪奈は一瞬引き戻され、再び杖を支えに立ち上がろうとした。 「雪奈、さん……聞いたら……」 三幸とヘルガルモンは壁に体をもたれ、不自然に微笑みながら耳を塞ごうと懸命に腕を震わせると、 歌が進むにつれ身体が痛み、溢れ続けるドーパミンと美しい声が、痛みの吹雪の音も旋律へと変え、まるで楽曲のように作り上げられていく 耳を塞げ、歌を聴くな。一欠片の理性から絞り出されたかすれ声が雪奈を突き動かし、また立ち上がろうとして、心地よさに、膝をつく。 骨が、臓器が、体中に亀裂が走り断ち割られ、やがて塵になって崩れ行くようだった。だがその激痛さえ、歌は決壊したダムのように溢れ続ける心地よさに変え、まだ聞いていたいと力を失わせていく。 吹雪の音、体内から響く痛みの音、再び力なく膝から崩れ落ち、杖が倒れた音。全てが完璧に混ざった死の清歌。それでも雪奈は抗おうとラ満面の笑みで膝をついたまま杖を掴もうと手を伸ばし、やがて止まった。 「っはは、颯乃ちゃんにも聞かせてあげたかったな、これ」 雪奈はそのまま、ゆっくりと目を瞑った。 そして微かに聞こえた低い劈きと共に、歌が終わった。 「あれ?なにいまの声?」 何も分からないまま引き戻され目を開いた雪奈は、聞こえていた歌を探ろうと、耳を澄ませる。 聞こえるのは、吹雪の音。痛みも流れ続けたドーパミンも消え、困惑しながらも雪奈は杖を拾いすぐに周りを見渡した。 「みんな、平気?」 「平気だが……何だったんだあの歌……もう少し流れてたらデジコアが破壊されたかもしれねぇ」 クリスペイルドラモンが頭を押さえ苦しげに言うと、雪奈はまた死が直前まで近づいたことへ身体を震わせ……またしても、思い浮かんだ巨鳥の目に、二度目の怒りが煮えたぎり始めた。 「あれ?吹雪……弱まってません?」 外を見た三幸の言葉に、雪奈は恐る恐る壁の外を見る。白い闇の先が、視認出来る。これならばと思いまた杖を支えに立ち上がると、吹雪の中に薄青の影が浮かび上がった。 「あれ!?なんでフロスベルグモンがいるの!?」 「というより、誰かと戦ってるぞ!」 壁の少し先に、フロスベルグモンと低く駆ける紫の残影がぶつかり合う様子が見えた。 「ソフィーさんか篤人さんでは、ないですわね」 駆けた紫の影が、フロスベルグモンと打ち合う。その一瞬で雪奈はカラテンモンの姿を確認し、胸の奥底から、吹雪の冷たさやフロスベルグモンの目を忘れる程の熱がこみ上げ、杖を握りしめた。 「雪奈、あのカラテンモン……」 クリスペイルドラモンの言葉に、雪奈は一度大きく息を吸い、こみ上げた熱が脳まで届かないよう押し留めると、表情を引き締めた。 「ごめん。クリスペイルドラモン……先行して欲しいんだけど、良いかな?」 ──── カラテンモンの剣を、フロスベルグモンは凍った翼で防ぐ。あの翼は剣と思え。そう伝えるとカラテンモンも苦慮している様子もなく戦っている。 まずは対応出来ている。颯乃はそう感じ、フロスベルグモンの動きを目で追うことに集中した。 「……よもや、これほどまでに早い到着とはな!」 「全力で飛んできたからな!俺のスピードを甘く見やがって!!」 フロスベルグモンは忌々しげにカラテンモンの剣を弾くと、一気に距離を取ろうと飛翔した。すぐさまカラテンモンも羽ばたき、低く飛んで後を追う。 「……速さならあの子も、自信があるのよ?」 鳥谷部が、冷や汗を流しながらも細目で笑う。言葉通り、カラテンモンは薄青色の影から、徐々に離れていく。 「っ……!くそっ!これ以上引き離されてたまるかよ!!」 カラテンモンが引き離された末の動きを【悟って】声を僅かに震わせた。何か手は。颯乃は渡された薄紫の防寒着を着てなお、刺すような冷たさの中で考え始めた矢先、フロスベルグモンの横から、スラスターを噴かせたクリスペイルドラモンが現れた。 「クリスペイルドラモン!?まさか!」 「……倒れてなかったか!」 フロスベルグモンは顔を歪ませ、咄嗟に高度を上げた。颯乃は胸に熱いものを感じたまま、クリスペイルドラモンに視線を送った。 クリスペイルドラモンが目を合わせ、口元を緩また。爪り振り被ると薄青に輝き、爪は氷のフックロープへと変化し、フロスベルグモンの氷の片足に絡みついた。 フロスベルグモンは焦ることなくフックロープを風の刃で切断するも、颯乃は次の動きがあると直感し、カラテンモンに降りるよう指示を出し、息を整えさせた。 「まだ終わっちゃいねぇぞ鳥公!ハウリングバースト!!」 続けて現れたヘルガルモンが、フロスベルグモン目掛け巨大は爆風炎を放った。曇り空を一瞬で埋める炎の中に、高度を上げて避けると命中する火球が紛れ込んでいることに気付き、颯乃は瞠目しつつ、カラテンモンに告げた。 「カラテンモン!奴なら火球に気づく!」 「だろうな!だったら俺が!!」 カラテンモンが大きく息を吸い、飛んだ。予想通り、飛行するフロスベルグモンは紛れ込んだ火球に気づき、高度を落として回避する。 その直後、飛翔し振り下ろされたカラテンモンの剣を防ぎきれず、フロスベルグモンは呻き、雪面に叩きつけられた。 それからすぐ、雪を踏みしめる音と共に、デジタルワールドに来てから殆どを共に過ごした相手が、流石に驚いた表情で現れたり 「颯乃ちゃん!?何でここに!? でも、無事で良かった!!」 「すまない!雪奈と一緒に来たテイマー達に助けられてな!城から大急ぎで飛んできたんだ!!」 「……そっか、間に合ったんだ!」 喉まで、熱いものが登ってきたのを堪え、颯乃はすぐに赤い防寒着を身に着けた右頬に傷のある少女を見た。 「君が、片桐達の仲間か。私は神田颯乃。 君達のおかげで最悪は脱したよ、ありがとう」 「犬童三幸です……篤人さん、もう着いてたなんて」 颯乃は三幸に「後で礼をさせて欲しい」と告げると、立ち上がったフロスベルグモンと、遅れてやってきた鳥谷部を睨みつけた。 「……これは私の判断ミスね、フロスベルグモン」 「論ずるのは後です母上……ここからは、死力を尽くすのみ!!」 フロスベルグモンの激励を受け、表情を引き締めた鳥谷部は空色のデジヴァイスを強く握り締めると、フロスベルグモンの身体がぼんやりとした灰色の光に覆われ叫び、再び吹雪を強め始めた、 「雪奈、たくさん言いたいことあると思うし、私にもある。だが」 「わかってる。大丈夫」 雪奈が少し潤んだ目で、再びフロスベルグモンを睨みつけ、杖を握りしめた。 「話は!こいつを倒してから!!」