コージン=ミレーンの日記 F月L日 新たな忌器のあるというバルロスを目指す道中、俺たちはプロロ王国を通過することになった。 我が父である勇者ユーリンの生まれ故郷にして冒険の始まりの地。 マスグラでの長逗留や監視付きの道中のせいで乏しくなった路銀を稼ぐために、立ち寄って少しばかり仕事でもしようかと思う…。 「おい!お前ら荷物と有り金を…(パンチ) 「俺の名は初物狩りの…(チョップ) 「ウホッ! 俺は魔王ぐ…(キック) 「この魔森お…(ぶっこ抜きジャーマン) 「見渡す限りの山と畑ばかりなのに、魔獣とかもちゃんといるんですね…」 プロロ領に入ってからの立て続けの敵との遭遇に、若干うんざり気味の口調でライトがこぼす。 「そりゃ自然が豊かなら魔獣が沢山いるのも不思議ではないだろ。でも魔王軍の支配地域や瘴気濃度の濃い激戦区と比べたら、敵のレベルは全然のどかなもんだよ」 「もっとも父上が冒険者になりたての頃は、レベルはともかく数の方はかなり多くて苦労したらしい」 「魔王戦国時代でしたっけ? 確か魔森王とかいう木の魔物を倒して名を上げたんですよね。そういえばさっきも木の魔物いましたけど…」 「さすがに魔王と呼ばれるのがあんなサイズなわけないだろ。似たような種族なんて腐るほどいるだろうし」 長い旅の中でレベルが爆上がりした俺たちからしたら、のどかと言ってもいいぐらいの手応えではあるが、それでも駆け出しの冒険者からすれば丁度良い難敵なのかもしれない。 そんなことを思いながら俺たちはプロロ王国の王都へと入って行った。 「ここ本当に王都でいいんですかね? この前のマスグラの辺境領の方が全然栄えてたけど…」 建物が散在する典型的な田舎町の光景と王都と呼ばれる場所とのギャップにライトは困惑していた。 「そういえば昔父上もなんもねーぞあの国ってボソッとこぼしていたが、まさかこれ程とはな…」 そんな会話をしながら目抜き通りであろうと思われる道へ入ると、通行人もそれなりに増え賑わいを見せている。 通りを歩く人々はサカエトル辺りの人間と比べると少々野暮ったくはあるが、皆朴訥で誠実そうな雰囲気があり好感が持てる。 ふとライトが何かに気づいたようであった。 「何かこの国の女の人ってデカくないですか?胸が…」 実に思春期の少年らしい着眼点である。 「大丈夫だ!お前も負けていなかったぞ!」 俺は少しばかりのフォローをする。 「別に張り合ってるわけじゃないんですが…。それにもう女の子に変身するのはこりごりですよ」 目抜き通りの外れにギルドの看板が見える。 これだけ平和な国だと派手な討伐の依頼は期待できないだろうから、しばらくは草むしりでもしながら長逗留でもするかと考えていた…。 *  *  *  *  * 「旅の方ですか、こちらは初めてなんですね。ギルドカードの方を見せてもらえますか」 受付嬢の指示に従い、俺たちはカードを提出する。 「え…っと…お二人ともC級ですか…?」 俺たちのランクを見て受付嬢が困惑している。 C級なんて何年かやっていれば、よほどの無能か怠け者でもなければ普通にたどり着くので大して珍しいものではない。 もっとも俺たちは冒険者稼業は旅先での日雇いバイト感覚でやっているので、ランクに関しては全くの無関心ではある。 それでも長逗留して複数回仕事を受けたことがあるような場所では、腕を見込まれてランク以上の仕事を受けることも少なくはない。 これはいったいどういう評価の反応なのだろうか…。 「おいC級だってよ…」「本当かよ…初めて見た…」 ギルド内にいた他の冒険者たちがざわめく。 「みんなー!プロロにC級の冒険者さんがやって来ましたー!」 受付嬢の掛け声にギルド内は大いに湧く。そして俺たちは理解のできない事態にドン引きしたのであった。 「何か驚かせちまったようだな。他所から来た奴がいると大体こうなっちまうんだ」 鎧を身に着けた中年の冒険者が俺たちに声をかける。 「C級なんてそんなに珍しいものでもないだろ?」 俺の疑問に鎧男が答える。 「そもそもこの国に他国から冒険者が来る事自体がレアだしな。後、この国の者は大体そこそこ経験を詰むともっと上を目指したくなって他所の国に旅立っちまう。結果的にプロロでC級持ちなんてかなり珍しい存在になっちまうのさ」 「アンタのランクはいくつなんだい?」 俺は鎧男に尋ねる。 「俺はB級さ」 「じゃあ、アンタも他所から流れて来た口ってわけか」 「俺は違うよ。生まれも育ちもここプロロさ。俺はこの国をこの町を愛しているから、留まってずーっとコツコツやってきた成果だよ…」 「他の土地だったらA級だって夢でもないのに…」 鎧男の背後から声をかける女性がいた。 年の頃は鎧男よりもやや下の妙齢の美女で、慎ましやかなスタイルが周囲のデカパイに見慣れた目には一服の清涼剤に感じた。 この人は?という俺の質問に鎧男が答える。 「こいつはフラト。俺の長年のPTメンバーで優れた氷魔法の使い手で同じくB級冒険者だ。そういえば自己紹介はまだだったな」 「俺はキョーカン。このギルド一の古株だけでなく若手の指導役も兼ねている。あの勇者ユーリンともPTを組んでたこともあるし、勇者クルーズに指導をしたこともあるんだ!」 そういえば父上からプロロに留まった最初のPTメンバーがいると聞いたことはある。 それに勇者クルーズ? 以前迷いの森で偶然出会った時にプロロからの帰りだとは聞いたが、アイツそんなことやっていたのか…。 「お二人とも見るからに息の合ったコンビのようだな。何かあった時には頼らせてもらう」 俺の率直な感想にフラトの方はまんざらでもないような表情を見せた。 「二人ともプロロが誇る名コンビですから。みんないつ結婚するんだ?って言ってますよ」 受付嬢も俺の言に乗っかる。 「ハハハ!何を言っているんですか!仕事とプライベートは別ですよ! 俺が冒険者を続けているのはノピコさんと毎日会うのを楽しみにしているからです!」 ぐいぐい迫りながらもキョーカンの視線は受付嬢の胸元へと向かっていた。 (氷結) キョーカンの全身が氷に包まれる。 「あれマスグラだとクソボケ罪で即死刑執行ですよね…」 中年男の見苦しい様を見てライトがつぶやく。 「確かに即死刑執行ものではあるが、女性の側にも人を見る目がないという酌量の余地もあるので、せいぜい無期懲役といったぐらいだろ…」 「えっ!何っ?!その怖い会話?!」 氷の中からクソボケ男が困惑していた。 *  *  *  *  * とりあえず当座の金を稼ぎたくはあるので、張られている依頼書の中から良さげな案件を探す。 「う~ん。草むしり、ドブ攫い、薬草採取…。こんなもんだとは思っていたがこれでは今夜の宿代も捻出できないぞ…」 でしたらこれはどうですかと受付嬢が依頼書を一枚取り出す。 「魔熊の討伐か…。何人かまとまって行けばここにいる面子でもできなくはないだろ」 魔熊、魔猪、魔鹿といった害獣の駆除というのは、時期にもよるがギルドではありふれた依頼である。 それだけに対処法やマニュアルなどは整備されており、頭に中級以上のメンバーがいれば人数さえ揃えば問題なくこなせるはずだ。 「いや…それがな…。ここには中級以上ってのが俺かフラトしかいなくて、最近色々仕事が詰まってたせいでこなせなかったんだ…」 「よかったらアンタたちにお願いできないか。できればついでに若い奴らを連れて行ってやり方を教えてやってくれ」 「別に構わないが俺たちはやり方が独特過ぎて参考にはならないぞ」 「それで構わないよ。若造どもに魔熊なんて大したことねぇって思わせる方が大切だ」 「おい!ソンナ、ウイジン。この人たちを道案内しがてら、しっかり勉強するんだぞ!」 「ところでアンタたち武器の装備はちゃんとやってるのか?」 「俺には武器は必要はない」「僕も武器は使わないです」 困惑した顔のキョーカンに見送られながら、全く頼りにならなさそうな同行者を連れて俺たちは出発した。 *  *  *  *  * 「まっ…まっ…魔熊が出たというのがこの辺りらしいんですがっ…」 ソンナが盾を構え異様に警戒しながらゆるゆると山道を先行する。 この分ではいつたどり着くか分からないので、彼女らに巣穴や水場になりそうな箇所や足跡や糞の痕跡を探しながら魔熊の行動範囲を探るやり方を教えた。 そうこうしているとライトが発達した嗅覚で魔熊の臭いを感知する。 その臭いのする方向に進んでいくと木々の奥から「タァッーーー!」と威勢のいい女性の叫び声がした。 すると巨大な塊が宙を舞い地面に着弾する。よく見るとそれは一匹の魔熊であった。 唐突な展開に俺たちが困惑していると森の奥から堅牢な手甲を装着した女性が一人出てくる。 その姿を見て俺たちに付いてきた女性冒険者たちが安堵したかのように叫ぶ。 「テオヴァン様!」 森から出て来た女性は俺たちに対し「大丈夫でしたか?」と問いかけると、同行の若手冒険者は感謝の意を声高らかに答える。 「すごいですねあの人…」 ライトが目の前で起こった信じられない光景の感想を述べる。 とりあえず俺たちは皆、森の中から出て来た女性の元へ向かった。 「ギルドから解決されない困った案件があると聞きましてここに来たんですが、皆様と被ってしまったようでして申し訳ありません…」 彼女の謝罪に俺はギルドのせいですからとフォローをした。 同行の女性冒険者によると魔熊を討伐したこの女性はテオヴァン姫。 プロロ王国の第三王女でありながら時折国内のトラブルを解決する冒険者として市井に現れるんだとか。 俺は彼女に行き違いなので謝罪の必要はありませんと告げると、彼女は気を取り直したようで「じゃあ今夜はみんなで熊鍋にしましょう!」と魔熊を背負いながら山を下り始めた。 山の斜面を道を探しながら下る。 その時俺の脳内の聖女から嫌な予兆が告げられる。そしてライトも嗅覚で何かが来ることを感知する。 次の瞬間森の中から別々に二匹の魔熊が俺たちを襲い掛かる。 俺はいつものように右手に魔力を込め刃と化した腕で魔熊を斬殺し、ライトは右腕から生やした刃で動揺もせず冷静に切り伏せた。 テオヴァンはこれだけあれば町の人全員に熊鍋がふるまえますねと喜んでいた。 *  *  *  *  * 熊鍋パーティー後のギルドの練場の一角、ライトはそこに佇んで何か考え事をしていた。それは以前から薄っすらと悩んでいたことであった。 自分は誰かを傷つけたくも殺したくもない。これは人として当たり前の道理ではあるし、自分もそれを信条としてやっていた。 だがそのために仲間が害されるということが実際に起こった。 それは先日の黒い甲冑によるジーニャ拉致の際に、邪魔をする黒い甲冑02の腕を切り落した時のことであった。 ライトとしては相手がゴーレムだと思い込んでいたので遠慮なく切断したが、中にいたのは人間であったため重傷を負う相手の姿を見てひどく動揺し、そのせいでジーニャを拉致されることとなった。 これだけなら非常に人間的な感情として片付けることもできるが、問題はそのシーンの前を含め時折敵を機械的に処理するような感覚に陥るということである。 がーすけとの融合前も竜の持つ破壊衝動や闘争本能のせいで暴走状態になることもあったが、今回のはそれとは対称的で冷徹に自己がコントロールされているのが実に恐ろしかった。 そしてそれは今日の魔熊襲撃のカウンターの際に同様の状態になったことで確信を得た。 自分は人外の者になってしまったのか、これからどう折り合えばいいのかライトは沈思にふけった。 「おっ!少年何やってんだ?」 ライトに声をかけるものがいた、キョーカンである。 「いやちょっと考え事っていうか悩みと言うか…。せっかくだから質問しますね? 敵を殺したくない傷つけたくないと思うことって悪いことなんですかね?」 「そんな風に思っていても魔獣が相手だと容赦なく殺してしまって、でも殺しても何の罪悪感も感じないんですよ…」 「逆に会話の通じるような相手なら敵でも傷つけると動揺してしまうし…。これって何なんですかね?僕って偽善者なんでしょうか?」 ライトの相談にひとしきり思考しながらキョーカンはつぶやく。 「君は強いんだな…」 キョーカンか放たれた意外な言葉にライトは動揺した。 仮に同様の質問をミレーンに問いかけたら彼は「お前は優しいから」と答えるであろう。 仮に同様の質問をハナコに問いかけたら「アンタは甘いのよ」とばっさり切り捨てたであろう。 困惑しながらもライトはその意味をキョーカンに問いてみた。 「仮に俺が生き死にの勝負になったら相手がどんな事情を抱えていようが、まずはコイツを殺してでも俺が生き残るってことを優先するよ。それが人の本能として当たり前の感情だからな。そんな中でも敵を殺したくない傷つけたくないなんて思えるのは君に余裕がある立場だからってことだぜ」 「だから俺から言えることは戦いの中での命には優先順位があるってことだ。1番は自分、2番は家族や仲間、3番は守るべき対象、4番は無辜の人々、そして最後は敵だ」 「仮に相手のことを思いやって自分が殺されても、敵が俺のことを悲しんでくれると思うか? そんなことは絶対ないって保証してやるよ。あっちはやったラッキー!で終了だぜ。だったら俺の命の方を優先するよ」 「まぁぐだぐだ言っちまったけど結局は自分の思うように動けばいい。何か言われたら知るかバーカだよ。結局開き直った奴が一番強いんだぜ」 ライトはこの明け透けな回答を聞いて少し笑ってしまった。 *  *  *  *  * 「たったったっ大変ですぅーーーー!」 翌日息を切らせながらギルドにテオヴァンがやってくる。 「隣国のカマセーヌ侯がまた兵を率いてやってきました! 今度は数も多くてぜひ皆さまの協力をお願いします!」 「またアイツかよ」「本当懲りねえな」「めんどくせー」 ギルド内ではうんざりした声に満ち溢れる。 他の冒険者に詳細を聞くと、今回の件は隣国アテーマ公国の重鎮カマセーヌ侯がこの国の第二王女シクサ姫を見初め縁談を持ちかけたものの却下されたため、実力行使を仕掛けたものである。 ちなみに前年も同様の事を行ったため、対処に当たった冒険者達からはまたかよ案件となったのではあるが…。 面倒ごとがないように和睦の線を探ろうと、そのカマセーヌ侯の人となりを聞いてみたのだが。 満場一致でジーコランドの住人という回答が来たので、これはさすがに可哀想と思い徹底抗戦の線で参加をすることにした。 戦況は王都の一歩手前ハラッパ平原にプロロ軍とカマセーヌ軍が相対する形となり、戦力はプロロ軍100人に対しカマセーヌ側は500人という大差である。 ライトを飛ばして空から周囲の状況を偵察させる。 それによると前線からチカックの森を挟んだ少し離れた場所にカマセーヌ侯の本陣が設けられており、それぞれの行き来は街道の一本道があるだけである。 本陣の戦力はたかだか50人程。なるほど大分こちらを見くびっているのがわかる…。 20人ばかりの冒険者達が武装して集まる。俺は彼らに作戦を告げる。 「作戦は非常にシンプルだ。部隊を二つに分けA部隊はカマセーヌ侯の本陣を攻める。そして残りのB部隊は街道上にバリケードを築き、本隊が戻ってくるのを防ぐそれだけだ!」 このような混乱する状況ではシンプルな指示と命令が精神的な軸となる。 とは言えこれだけでは戦力不足か…。そう思った俺は援軍の要請をするために作戦開始までには戻ると言ってしばし離れた。 離脱する前にライトに少々今回の策の話をする…。 *  *  *  *  * ライトが両の腕の刃を震わせながら周囲の森の木々を伐採して行く。 「時間がないんでとにかくこれを高く積んで下さい!」 その合間に一部の冒険者に枝払いをした時に出た長めの枝を使って、防御用の長槍を作らせる。 相手を殺す必要はない。とにかくバリケードの向こうに通さなければ良いし、敵と距離を取らせることができるのは精神的にも優位になれる。これはそのための武器である。 準備は完了した。 A部隊本陣突入組には俺、テオヴァン、キョーカン、フラトの精鋭四人。 B部隊防御組にはそれ以外が就いてもらっている。 「本当に4人で大丈夫なのかよ…」 キョーカンが作戦前に愚痴をこぼす。 「少なくともこちらはなんとかなる。俺が30、テオヴァンが10、キョーカンとフラトが5づつで終了する。厄介なのは魔法使いがいる可能性だ。フラトには速やかに見つけて無力化することに専念してくれ」 「随分えらい自信だな?! じゃぁB部隊の方はどうなんだよ?」 「あっちは心配しなくてもいい。俺たちの最高戦力を置いてある」 (ミレーンの回想) 「がーすけの力を使うなですか?!」 「もちろんフィジカル強化とかは構わないんだが、がーすけに変身したり入れ替わるのは止めて欲しい」 「がーすけに替わればただの人間の兵士相手なら千や万でも問題ないだろう。ただこの国はしばしば同じような混乱が起こるみたいだから、みんなにこの戦を経験してもらって俺たちがいなくなっても守れるようにしてもらいたいんだ」 「それにお前がお前のままこの戦を終わらせることができたら、今悩んでいることへの解決に繋がるかもしれないだろ…」 「わかりました…」 *  *  *  *  * ハラッパ平原での交戦が始まる。プロロお得意の遅滞戦術で応じるが、地の利を活かせない平原では厳しいものがある。 有利な戦況を聞き油断する敵本陣へとA部隊が奇襲をしかける。 ミレーンが風のように本陣へなだれ込むと強化した手刀で護衛の騎士を袈裟切りにする。そしてその騎士の剣を奪うと、そのまま次の敵を切り伏せる。 ミレーンの馬鹿力で切り付けられた剣は相手を両断する前に砕け、中途半端に戦闘継続が不能となるレベルの重傷を負わせることができる。 しかも剣が奪われてしまったため、反撃する能力をなくさせるという二段構えの戦法である。 これを繰り返すことで戦うことも動くこともできない重傷者だけがいたずらに増えて行くのであった。 「あいつ30人どころか、50人全員半殺しにしちまいかねないぞ!」 キョーカンは切り伏せた兵士からハルバードを奪うと、それを振り回し周囲の兵士たちをなぎ倒す。 あらゆる武器を使いこなす武器マスターの面目躍如である。 フラトは一歩下がった位置から全員のサポートをする。幸いこの本陣には魔法使いがいないようなので氷の矢を前衛各員の援護で放つ。 テオヴァンの行く先々には人の柱が残る。それは彼女の投げ技で垂直に叩きつけられた被害者の姿であった…。 A部隊の状況はほぼ終了しつつあるので、ホーリーフラッシュを使ってB部隊へと次のフェイズの合図を入れる。 *  *  *  *  * ホーリーフラッシュの合図を確認して、敵本体に紛れ込ませた間諜が虚報を撒く。 「本陣が攻められたぞー! 侯爵様が危ないぞー!」 敵本隊が兵を二分して本陣へと向かわせる。だがその道中には丸太を積み重ねた堅牢なバリケードと丸太を抱えた少年が立ち塞がっていた。 「ここは通さないですから、さっさと地元へ帰って下さい…」 攻め入る兵士たちへ少年は丸太を振り回す。 まるで野球小僧がバットを振り回しているようだが、持っている物は長く太い木の丸太である。食らったものはただでは済まない。 丸太のスィングを潜り抜けバリケードを超えようとする兵士が何人か現れる。だがバリケードの裏側にいる冒険者たちが長槍を使って近づけさせない。 とにかくA部隊が制圧するまでは耐えきるんだ、その思いが彼らを支えていた。 バリケード側に弓兵が到着する。横一線に並び一斉射を行う。 ライトは持っていた丸太を回転させ矢玉を防ぐ。一射目は何とか防げたがこの先はカバーできるか分からない。 ならば二射目前に先制攻撃だ!と持っていた丸太をフリスビーのように水平に飛ばし、弓兵隊が蹴散らされる。 ライトは丸太を追いかけるように突っ込むと拾った槍を振り回して前線の兵士達をなぎ倒して行く。 一騎当千の強者の登場に敵大将である騎士団長は動揺する。 そこでバリケードを内側から破るべく周囲の森から伏兵を迂回させ背後に回り込むように指示をした…。 *  *  *  *  * 「もう護衛の兵士はいなくなったぞ。おとなしく降伏しろカマセーヌ侯」 「くっそふざけるな! ならばお前らに一騎打ちを申し込むそれで決着を付けようぞ!」 カマセーヌ侯がそう叫ぶとスイッチのような物を押す。すると地面からリングが生えてきた。 「「「「ゲェーーーーーッ!」」」」 「どうだテオヴァン! お前が邪魔しに来るのは分かっていたから、そのためにリングを用意していたんだよ!」 「そして一騎打ちの相手は私ではない。代理のスペシャルゲストを用意してある!」 カマセーヌ侯の背後から巨体の獣人が現れリングインする。 『アテーマ公国代表! ビースターダムチャンピオン!エンプレスルーブ!』 「うぉおおおおー! こんなレジェンドと戦えるなんて身震いします!」 こっちがリーチかけてるのに理不尽なルールで仕切り直しされてるが、当人が納得してるのならまぁええか…。 「そしてさらにもう一人スペシャルゲストの参加だ!」 突如周囲にス魔ルタンXのBGMが流れる…。そして花道からグリーンとシルバーのタイツを履き、グリーンのガウンを纏った獣人が入場してくる。 『アテーマ公国代表! ABPF(オールビーストプロファイティング)チャンピオン!シャイニーサニー!』 「この決着戦は男女ミクスドタッグマッチで行う! お前らにその度胸があるならかかってこいやー!」 どうやらプロロ側の人材不足を見越してのタッグマッチなのであろうが、残念だったな今ここには俺がいる!  あらゆる種族と戦う超人(超越人種の略)レスリングは聖騎士の必須科目だ! 「トォーーーッ!」 聖騎士の衣装とマスクを装着し俺はリングに飛び込む。 「ほぉ…いい度胸だな。貴様名前は何という…?」 「リングネームはホーリーナイト! レンハートマンホーリーナイトだっ!」 キョーカンとフラトの二人は俺たちは一体何を見させられてるんだ…と理解の追いつかない表情をしていた。 *  *  *  *  * プロロ軍と接していた前線では兵が二分されたことで、カマセーヌ軍側が徐々に劣勢になっている。 指揮官の騎士団長は伏兵が回り込んで敵のバリケードを内側から破る!それまで持ちこたえろと鼓舞する。 実際その通り20名ほどの伏兵が街道脇の森を潜り抜けてバリケードの裏側に回り込もうとしていた。 最初にそれに気づいたのはソンナであった。彼女は盾を掲げ必死に押し返そうとするが、人数も練度も桁違いな正規兵には手も足も出ない。 だが他の冒険者もバリケードに張り付いた兵士たちを追い返すのに四苦八苦しており、彼女へ支援することもできない。 もはやこれまでかと思った時に意外な援軍が現れた…。 「オラッ!雑魚人間どもが舐めんなよ! 俺は勇者を倒したこともあるランバージャック様だぞ!」 両手に斧のような刃物を生やした昆虫型の魔物が敵兵士を蹴散らす。 さらにその脇で角を生やしたゴリラのような魔獣も暴れている。 「ウホッ!(この国を人間の兵士ごときに落とされたら本部に戻されてガン詰めされた上に、ぬるい現場を失ってしまう!俺のゆるふわ魔王軍生活のために死ねやオラァ!)」 そして森の中では30名ばかりの兵士が宙づりになって精気を奪われている…。 「このアスラマンジュニア様の縄張りに入ろうとは命知らずもいたもんだなぁ!」 「なっ…何で魔獣たちが味方してくれるの…」 安心の余りソンナが率直な疑問をこぼす。 「あのムキムキマッチョにおど…いや頼まれてな!」 ランバージャックがこぼす。ミレーンが言っていた援軍とは彼らのことであった。