*  *  *  *  * リングの上ではテオヴァンとエンプレスルーブが先発として登場する。 握手を交わすかと思いきや、いきなりヘッドバッドを食らわすエンプレスルーブのヒールムーブで試合が始まる。 さらに毒霧、凶器攻撃、コーナーポストのロープを使ったチョーク攻撃と、今時なかなか見れない魔昭和の悪役レスラーのような反則技の数々にはちょっと面白くなったが、さすがに味方にこれ以上ダメージを加えられるわけにはいかない。 テオヴァンにタッチを求め交代すると、相手側もシャイニーサニーへと交代した。 まずはセオリー通り手四つで組みバックの取り合いをする。力比べでは俺が上回りバックを取る。 するとシャイニーサニーはすかさずお得意のエルボーで拘束をほどく。 なるほど打撃戦での意地の張り合いか!そう察すると俺は奴の胸元にチョップを連打する。 シャイニーサニーは俺の顔面にエルボーを連打する。 エルボー、チョップ、エルボー、チョップ…、最終的にはダメージで俺はクラっときてしまった。 よくよく考えれば顔面エルボーと胸元チョップじゃダメージが割に合わないだろ…。 この流れを断ち切るべく、俺はミドルキックを入れてカットした…。 *  *  *  *  * 援軍の参加でバリケードの守りが安定したのを確認すると、ライトは翼を広げて飛んで行く。狙いは敵の大将である騎士団長。 周囲に指揮をするいかにもな貫禄のある風貌の豪傑を見つけると、その眼前に着地し一騎打ちを申し出る。 護衛の騎士たちが斬りかかろうとするもライトの刃から放たれた真空波で近寄らせない。 騎士団長が自慢の愛剣を抜くと一騎打ちが始まった。 「秘剣!裂空破岩斬!」 騎士団長が上段に振りかぶり剣を叩きつけようとする。だがライトは冷静に対処する。 「がーすけ…刃を震わせろ…」 マスグラで得た新たな技。刃を高速振動で切れ味を増させる、所謂高周波振動ブレードである。 それを以てすればいかな名剣であろうと無事でいることは難しい…。 騎士団長の愛剣は三分割され、さらにその身には首元へライトが刃を突きつけ、まさに万事休すといった具合となった…。 *  *  *  *  * 試合開始から15分が経過したが、相手はさすがにレジェンドだけあって試合運びの上手さに翻弄される。 特にテオヴァンとエンプレスルーブとの相性は悪く、得意の投げを打とうとも体格差を活かしてロープを掴んだり地面に手を突いて防いだりとなかなか有効打とはならない。 仕方がない…セオリーからはやや外れるが、ちょっと掻き乱しに行くか…。 テオヴァンにタッチを求めてエンプレスルーブと初のマッチアップとなる。 「やっと男前の登場かい! だけどこの体格差なら男も女も関係ないんだよ!」 エンプレスルーブは威圧するように無造作に近づいてくる。だがデカブツ対策はちゃんと履修済なんだよ! 俺は奴にロー…いや身長差のためミドルになってしまったがとにかく左膝を狙ってキックを加える。 ヒットすると奴は苦悶する表情を隠しながらも平気だよというアピールをする。 ならばとばかりに同じ個所に2撃3撃加えると、キックを受けるのを嫌がり腰が引け始めている。 これはかつて存在した勇者PT、勇WFのリーダー前田アシュラが大巨人アンネ・ザ・ジャイアントとのセメントマッチとも呼ばれる伝説の一戦で使われた関節蹴りである。 再度キックを入れるフェイントを入れ、奴が後ずさったのを見計らい左足をタックルに取る。 そして倒れたところをヒールホールドにキメると思いっきり締め上げる。 奴は長い右足を使ったかかと落しで外そうとするが、俺はキメた足首を捻って右足を上げられないようにする。 この流れも例の一戦で使われた技だ…。 エンプレスルーブはヒールホールドを外すのを諦めロープブレイクで逃げる。 さらに俺がキックスタイルで構えるのを見ると、相手をするのを嫌がりパートナーのシャイニーサニーへと交代する。 これで布石は十分置いた…。 俺がフェイントで仕掛けたローキックを警戒し、彼は左膝を上げてガードを取る。 だがそれが俺の狙い目だ! すかさずその上げた足を取ると右腕を巻き込みドラゴンスクリューを決める。 膝の爆弾を攻められうつ伏せで苦悶する彼に俺はボーアンドアローを決める。 彼の持つ別の爆弾である腰を攻める。 エンプレスルーブがカットに入ろうとし、テオヴァンもそれを阻止しようとするがどうも間に合いそうにない。 ならば少しブラフを仕掛けるとするか…。 「おい!汗でメイクが溶けてるぞ。意外とおぼこい顔をしてるんだな!」 俺の発言を確かめようと一瞬動きが止まる。その隙にテオヴァンが背後から捕まえバックドロップを決める。 プロレスの世界では長身巨体が有利なのは当然であるが、しかし受けるダメージということに関しては体重や落差が大きい分長身巨体の方が不利である。 それはヘビー級レスラーが空中殺法をしないということでもわかるだろう。 もちろん自滅をしないようにレスラーは受身を取るのであるが、動揺&不意を突かれたエンプレスルーブはそれをすることを忘れてしまい。 脳天からもろにバックドロップを受けてしまった。 テオヴァンはエンプレスルーブを引きずり起こすとパイルドライバーを決めようとする。 しかしエンプレスルーブはマットに手を突いて必死に堪える。 ならば!とテオヴァンはエンプレスルーブの手に氷魔法をかける。 氷結してマットを掴めなくなりさらに滑りに良くなったことで、フェイバリットの準備は完成した。 俺もそれに合わせシャイニーサニーを起こしブレーンバスターの体勢へと持ち込む。 「レンハートバスター!」 「トルネードパイルドライバー!」 同時に飛び上がったテオヴァンに指示をする。 「行くぞ!ドッキングだ!」 俺の両足をテオヴァンの肩に挟みこませる。そしてそのままマットへと叩きつける。 レンハート…いや言うならばコイツはプロロドッキングだ! 「「ゲェーーーーー!」」 10カウントを過ぎてもシャイニーサニーとエンプレスルーブは起き上がれない。この試合は俺たちの勝利だ! カマセーヌ侯に敗北を認めさせるために詰め寄ろうとしたがリングサイドに奴の姿はない。 恐らく逃げたのであろうが、だがこちらもちゃんと手は打っている。 「やりましたぜ親分!」「こいつの身代金いくらぐらいもらえるんでしょうね!」 周囲に潜ませておいたドルガン一味が逃げようとしたカマセーヌ侯の身柄を拘束したのであった…。 *  *  *  *  * カマセーヌ侯捕縛という情報を前線に伝える。プロロ軍の包囲が緩み隙間ができると、敵軍勢はそこから一目散に逃げ出して行った。 「殺さないでおきますから、さっさと帰って下さい…」 ライトが敵騎士団長を解放すると、彼は馬に乗り去って行くように見えた…。 だが騎士団長はナイフをかざしてプロロ軍の本陣へと突っ込む。 彼の中にはせめて敵軍の将であるシクサ姫の命を取らねばこの恥はそそげないという一心しかなかった…。 「一体何やってるんですかアンタはぁぁぁ!!!!」 ライトが高速で振った刃から放たれた真空波が、敵騎士団長の振りかざしたナイフを持つ右手ごと落とす。 右手を失った敵騎士団長は諦めて逃げて行く。こんな状態になっても落馬しなかったのはさすがと言っていいだろう。 敵兵は全て撤収し、戦はプロロ王国の勝利となった。 ライトはシクサ姫の元に向かう、自分の甘さが元で危険な目に遭わせたことへの謝罪をしに…。 「すみません。僕があの人をちゃんと始末しておけば…」 「気になさらないで下さい。戦場に立てばこのようなことが起こる可能性は覚悟しております。それに私を助けてくれたのはアナタではありませんか」 「それにアナタが殺さなくても弱小のプロロに敗北して剣と利き腕を失ったんですから、彼はもう騎士としては死んだも同然です…」 シクサ姫は地面に落ちた敵騎士団長の右手を拾い上げてライトに語りかける。 そのお姫様らしからぬ豪胆な物言いにライトは少しおかしみを感じたのであった。 *  *  *  *  * 「で、答えは結局見つかったのか?」 「いや全然…。でも妙なこと考えたり仕返しできないようにボコボコにするぐらいは、しょうがないかなとは思いますけど…」 プロロの王城内で待ちぼうけしている間に、俺たち二人はライトの抱えていた悩みについて話し合っていた。 「しかし報奨金をもらうだけなのに何でこんな面倒なことになったんでしょうね…」 「今回の戦の功労者に王様が自ら礼を言いたいらしいから仕方ないだろ。それに今の懐具合じゃスルーするのもできないしな…」 「ところで王様に会うというのに何でそんな恰好してるんですか」 ミレーンは聖騎士の制服とマントそして覆面を身に着けている。 「いや聖女のやつが、嫌な予感がするからこの恰好で行けと頭の中で散々言うのでな…。それにコスチュームとマスクはレス…いや聖騎士の正装だから問題ない」 「(ついにレスラー言いやがったよこの人…)」 文官に呼び出され、連れていかれた玉座の前で俺たち二人は跪く。 オンリワン王、かつて単騎で竜魔王ロードラゴを倒したという豪傑である。 そしてその傍らにいる王妃より礼の御言葉が賜られる…。 「この国とは縁も所縁もない異国の者でありながら、王国を救うために粉骨砕身した此度のあなた方の働きには大変感謝をしております。そこであなた方の功績を称え勇者に任命すると共に、この国のしきたりに則りプロロ王家の一員となってもらいます…」 「まっ平たく言うとウチの娘もらって王様になってくれってことだ!よろしくな婿さん!」 王妃の横に並んでいたテオヴァンは喜びの余り興奮が隠しきれなくなっている。 「本当ですかお父様!嬉しゅうございます。ホーリーナイト様、ぜひ私の生涯のタッグパートナーになって下さい!」 「いやテオヴァン殿。気持ちはありがたいが俺にはやらなければならない使命があるので、婚姻どころかこの国に居続けることもできないのだ。申し訳ないが今回の話は無かったことに…」 「テオヴァン!ええ婿さんもらったな! お前が畑だったら1ダースぐらい子供作れるぞ!」 「えっ!ちょっと待って!人の話聞いて!」 ミレーンがライトに何とかしろというアイコンタクトをする。 凄まじく嫌な予感がしたので、ライトは少しづつ後ずさりしながらフェイドアウトしようと試みる。 すると背中に何か柔らかい物が当たる感触がある…。ライトが振り向くとそこにはシクサ姫が立っていた。 「まぁとっても大胆なのですね❤ でも積極的な殿方は私も嫌いじゃありませんわ。この先もよろしくお願い致します…」 「いやあっちと違って僕、お姫様とは大して接点なかったですよね?! 女性とお付き合いもしたことないのに、いきなり結婚ってのはハードルが高すぎるというか無理難題というか…」 「あっ!そうだ僕まだ未成年なんです! だから100歩譲っても無理なので今回はご縁がなかったということで…」 「おい坊主!お前年いくつなんだ?」 「えっと…じゅうご…いや14!14才です! アイム未成年!アイム未成年!」 「よーし!パパ、可愛い娘のために権力使っちゃうぞ! ウチの国は今から結婚できるのは13才以上からな。どうだいかーちゃん?」 「大変よろしいと思います…」 ざまぁ見やがれライト!一人だけ逃げようとした罰だ! 申し訳ないが俺もこの場は逃げさせてもらう『認識阻害!』 「あっ!ミレーンさん!ずるい消えやがった!」 「あれ?! 婿さんどこ行きやがった? しょうがねぇその小僧だけは逃がすなよ!」 まずい…囲まれる前に逃げねば…。ライトは窓を突き破ると羽を出して飛んで逃げて行く。 「ひどいですよミレーンさん!逃げるなんて!」 「先に逃げようとしたのはお前の方だろライト!」 関門捉賊だか八門遁甲だか分からんが、それから3日3晩行く先々で伏兵が現れるという逃亡劇を俺たちは演じることとなった。 とほほ…プロロはもうこりごりだよ…。 *  *  *  *  * 命からがらの思いでプロロを離れた1週間後、レス兄から「レンハートマンホーリーナイトの手配状がプロロから回って来てるんだが、お前何したん?」というメッセが送られてきた。 俺は「人助けです…」としか答えようがなかった。