『かのみさ 1』 ────────────────────── 「花音さん今日はありがとうございます、買い物付き合ってもらっちゃって」 「ううん、私も楽しかったよ。また行こうね」 駅へと続く通りを、軽い足取りで歩く美咲と花音。 「いや〜でもやっぱり花音さんと二人でいると落ち着くな〜……」 「えっ」 「あ!いや……別に変な意味じゃなくて!ハロハピのメンバーみんなで行動するのも楽しい、いや騒がしくて大変なのはそうなんですけど、そうじゃなくて……たまにこうやって花音さんと二人でのんびりできるのは、その、良いなって……」 しどろもどろになりながら喋る美咲とは対照的に、表情を静かにしていく花音。 「……それって美咲ちゃんも私のこと……特別に想ってくれてるってこと?」 「うぇ!?」 花音からの熱っぽい視線を受けながら、美咲は自分の心臓が胸の中で高鳴っていくのを感じる。 「……な、な〜んちゃって」 「は!?……あ〜もう、花音さん冗談きついですってホント……」 「えへへ、ご、ごめん……って、あ!美咲ちゃん待って〜、せめて駅まで一緒に〜!」 ぷいと顔を背けて歩みを早める美咲の後ろを追いかける花音。通りに夕陽が差し込み始め、美咲の横髪からのぞく耳の先がほのかに赤く色づいていた。 ────────────────────── 『かのみさ 2』 ────────────────────── 「美咲ちゃん、いいかな……?」 「ああはい、どうぞ」 美咲がミッシェルの両手を広げると、花音が遠慮がちに身体を寄せる。他のメンバーがすでに舞台袖に移動した、しんとした静かな楽屋の様子を眺めながら、美咲はぼんやりと考える。 (最近、花音さんがよくミッシェルにハグしてくるようになった……はぐみやこころなんかだと、いつもしてくるから気にならないけど……やっぱり大学生活って大変なのかな……) 美咲の視界ににこやかに微笑む花音の姿が映る。既にミッシェルから一歩離れた花音は、ドラムスティックを軽く握り締め、穏やかな声色で美咲に声をかける。 「……ありがとね美咲ちゃん。それじゃ私たちもステージ行こっか?」 「はい、今日も頑張りましょうね花音さん」 「美咲ちゃん」 ある日のライブ終わり、少し薄暗い控室で着替えをすませた美咲が身なりを整えていると、そっと入室してきた花音に声をかけられた。 「どうかしましたか花音さん?……って、え!?」 急に花音に抱きつかれ、仰天する美咲。いつもはミッシェルに遮られる花音の熱と身体に回された腕の感触が美咲を襲う。 (いやいやいや!今ミッシェルじゃないんですけど!) 美咲の混乱をよそに、花音は大きく息を吸い込んでいく。 (え!?花音さんっていつもこんな吸ってきてたの?っていうか今あたし汗臭く……なんかこの人すごい良い匂いするんですけど!) 既に処理能力の限界を迎えた美咲が目を回していると、花音は満足そうに顔を上げ、その後何事もなかったかのように手を振りながら部屋を後にする。 「ふう……いつもありがとう美咲ちゃん、じゃあまた明日ね」 「は、はい……それじゃ……」 それからその日、家に帰って就寝する直前までの記憶をさっぱり消失させた美咲だったが、眠りに落ちる瞬間まで、ほんのりと頬を染め上げてはにかむ花音の顔が、頭から離れなかった。 ────────────────────── 『かのみさ 3』 ────────────────────── 「ねえ美咲ちゃん、ミッシェルって今はもう覗き穴じゃないんだっけ?」 「ああはい、そうですね〜いくつか種類があるんですけど、今日のはカメラがついてるやつです」 「私が試しに着た時のものからずいぶん変わってるんだね」 ライブハウスの楽屋とは別の控え室、ミッシェルに着替えた美咲と花音が静かに会話を重ねている。 「外からだと全然わからないね」 「ここら辺に上手く隠されてるんですよ」 「そうなんだ」 花音はミッシェルに寄ると、美咲が示した先、ミッシェルの鼻元に顔を大きく近づける。 「どれどれ……どうかな?美咲ちゃん」 「え?いや、どう?と言われても……花音さんしか見えてないですけど」 「ふふっ」 花音は軽く笑うとミッシェルから離れ、軽い足取りで部屋を後にする。 「いや、ふふって……何……?」 部屋にポツンと一人残された美咲。先ほどミッシェルのモニターに大きく映っていた花音の、その満足そうな笑みの意味を考えていた。 ────────────────────── 『かのみさ 4』 ────────────────────── 「花音さん、ルームシェア生活楽しそうですよね」 「うん、毎日すっごく楽しいよ。美咲ちゃんも興味あるの?」 CiRCLEでの練習終わり、休憩スペースで一息つきながら他愛無いおしゃべりをする美咲と花音。 「あーいや、私ずっと実家暮らしなんで、どんな感じなのかなって……友達と暮らすって気い使ったりしませんか?」 「うーん、私は千聖ちゃんとはのんびり過ごせてるけど……あ、でもお互い大学もバンドもあるし、1日中ずっと一緒の日ってたまにしかない、かも?」 「なんたってアイドルですもんね白鷺先輩」 「うん、お仕事とかレッスンもたくさん頑張ってるみたいだし。あと私もその、緊急ハロハピ会議とかで……」 「あれ急に招集されますからね……」 そう言いながら、お互いに同じようなぎこちない笑顔をしていたことに気づき、思わず吹き出す二人。はあ、と一呼吸おいた美咲は、日頃の騒がしさを思い浮かべながら、しみじみと呟くように言う。 「そう言われると、あたしも寝る時間とか学校とか抜きに考えたら……ハロハピにいる時間がほとんどですね」 「うん、美咲ちゃんと一緒の時間もたくさんだね」 (そっか、別に花音さんといる時間減ってないもんな……あれ?そんな話だったっけ……?) ────────────────────── 『かのみさ 5』 ────────────────────── 「すっご〜い!いろんな色たくさんだね!」 「どの色から食べるべきか……それが問題だ……!」 「きっと虹からこぼれ落ちたのよ!みんなで食べましょう!」 「んなわけないでしょうよ……いや確かにすっごい種類あるけども」 弦巻邸でのハロハピ会議が終わった後、黒服の人たちが用意してくれた紅茶と──色とりどりのマカロンを前にめいめい声をあげるハロハピのメンバーたち。 「わあ〜本当にどれを食べるか迷っちゃうね……味も違うんだよね?」 「はぐみは……はぐみ色のやつにする!」 「嗚呼……!生命力溢れる太陽のような色だ……確かにはぐみによく似ているマカロンだね……儚い……!」 「あんたらマカロンひとつ選ぶのにもそんなに騒げるのね……」 ティーカップを片手に呆れ顔を浮かべる美咲がちらりと隣を見ると、マカロンを選ぶ花音の少し困ったような表情が目に入る。 「うーん、じゃあ私は美咲ちゃん色のを食べようかな」 「は?」 なんで?──という言葉を飲み込んだ美咲をよそに、色鮮やかなマカロンの中から落ち着いた色合いのものがひとつ花音の指に摘み上げられた。 「あ、美咲ちゃんこれ食べたかった?」 「い、いや、どうぞお好きに……」 「オレンジ味だった!美味しい!コロッケ味のもあるかな?」 「そんな儚いマカロンがあるなら……お米の味のマカロンも欲しくなってしまうね……!」 「素敵ね!ご飯を全部マカロンにできるわ!」 三人がいつものようにしょうもないことで騒いでいる中、美咲は妙な緊張を感じながら、マカロンを食べる花音を横目で見ていた。 「ん、これゴマ味……かな?おいしいよ美咲ちゃん」 「え?……あ、はい……それは良かった……です?」 困惑の気持ちを晴らそうと、美咲は適当に目についた濃いピンク色のマカロンを摘んで口に運ぶ。 「美咲ちゃんのは何味だった?」 「ん……これは、いちご……いや、ラズベリーとかですかね?ちょっと酸っぱい感じ?」 「ふふ、そうなんだ。次はどれを食べようかな?……美咲ちゃん、どうかした?」 「あっいや!別に、どうもしてないです!」 そう言って取り繕った美咲は、先ほど手に取っていた水色のマカロンを、ティーカップの後ろに隠すように置いた。 ────────────────────── 『イヴあや 1』 ────────────────────── 「アヤさん、お疲れ様です!」 「あれ、イヴちゃん!おつかれさま!今日は撮影のお仕事じゃなかった?」 廊下いっぱいに響くほどのイヴの元気な声が、レッスン室から出た彩の耳に届く。 「はい!撮影は無事に終了しました!打ち合わせで事務所に戻ってきたのですが、彩さんが自主練をしていると聞いて……これ差し入れです!」 「ええ〜!嬉しい〜!ありがとうイヴちゃん!」 イヴから手渡されたゼリー飲料を受け取り、思わず彼女の手を取りながらはしゃぐ彩。イヴの顔を見る際、いつもよりも目線を上げていることに気づき、ちらりと彼女の足元を確認する。 「あ、イヴちゃん今日はヒールなんだね」 「はい、衣装に合わせるのがヒールの予定だったので、今日は朝から自前のものを履いていました!」 「そうなんだ〜イヴちゃん元々背高いから私と身長差けっこう出るね〜」 「10センチ強、といったところでしょうか?」 いつか雑誌で見たことがある情報を、彩は無邪気に笑いながら冗談めかして言う。 「ちょうどキスしやすい身長差だね!ドキドキしちゃう〜、な〜んて……」 「……アヤさん」 にへっと笑う彩を見つめながら、イヴは彼女へ一歩近づく。先ほどまで握られていた手が、彩の腰あたりにそっと回される。 「イヴちゃん……?」 「アヤさん──ドキドキしますか?」 「えっ──」 真剣な眼差しでイヴにじっと見つめられ、彩の手のひらに無意識に力が込められる。空調の音が低く響く。自分たち二人の周りで、時間の流れがやけにゆっくりになっているような感覚さえあった。 「……若宮さ〜ん?いま打ち合わせ大丈夫ですか〜?」 遠くから投げられたスタッフの声で、二人の間の空気がはっと切り替わる。イヴの朗らかな声がスタッフに返された。 「はい!大丈夫です今行きます!……それではアヤさん、私はここで失礼します!」 「あっ、う、うん……じゃあね、イヴちゃん……」 にこやかな顔のイヴがその場を離れた後、彩はしばらくの間、自分の心臓の鼓動が落ち着くのを待っていた。 ────────────────────── 『つぐモカ 1』 ────────────────────── 「つぐ〜、それドライフラワー?」 「うん、スワッグにしてお店に飾ろうと思って」 ある日の羽沢珈琲店。珍しく客足もまばらな時間帯、テーブルの一角で作業するつぐみと、それをカップ片手に見守るモカの姿があった。 「そのお花モコモコでかわいいね〜」 「夏のお花でケイトウって言うんだよ。ドライフラワーにしても色褪せないって蘭ちゃんに教えてもらったの……そうだ、この小さいやつモカちゃんにあげるね」 そう言いながらつぐみは、小さく短めのものを一本手に取り、モカのシャツの胸ポケットにすっと飾る。 「おお〜……これ、花言葉は?」 「え!?は、花言葉?……えっと……“おしゃれ”とか“風変わり”とか……」 「モカちゃんにピッタリですな〜」 「ふふ……」 夕暮れ色の花を胸に、ご満悦な表情を浮かべるモカ。ささやかなプレゼントを喜んでもらえたことで、つぐみの口角も緩む。 「じゃあお返しに、つぐにはこれを差し上げましょ〜」 「プレッツェル?」 あとでお家で食べてね──と、モカは自分のバッグから小さな紙袋を取り出し、つぐみへ手渡す。 「結び目の固さは絆の固さ。パン言葉は“友情”だよ〜」 「へえ……パン言葉なんてあるんだ。友情かぁ……」 「今、モカちゃんが作りました」 感心した表情で、つぐみの顔が固まる。しんみりとした気持ちが、気恥ずかしさに変わっていく。 「もう!普通に信じちゃったじゃない!」 「ごめんごめん〜、でもモカちゃんとつぐの友情はとっても強く結ばれているよ〜」 へらへらと笑うモカを見て、はぁ、と一息はいて落ち着くつぐみ。微笑みながら、少し真面目な声色を作って言う。 「うん。いつもありがとうねモカちゃん」 「へ?」 突然のその言葉に呆気に取られたモカの前で、つぐみは続ける。 「モカちゃんのマイペースさっていうか……いつも近くに居て、気持ちをゆったりさせてくれるところ、私好きだなって」 「ちょ、ちょっとつぐ……」 「……ふふ、適当なこと言ったお返しだよ〜」 「あっ……こ、こら〜」 モカの控えめに握られた拳が、ふにゃふにゃと宙に揺れる。つぐみのころころとした笑い声が、穏やかな店内に響いていた。 ────────────────────── 『つくなな 1』 ────────────────────── 「ねぇ、ななみちゃん。さっきの演奏、すっごく良くなかった?」 「うん、とってもいい感じだったね〜」 ある日のアトリエ。自主練を終えたつくしと七深の二人が、ソファに座りながら一息ついていた。 「つーちゃん、最近一段と上手くなったんじゃない?」 「ふふーん!私だって日々成長中なんだからね!透子ちゃんや他のみんなにも負けてられないんだから!」 「ふふっ、つーちゃんはかわいいね〜」 「ちょっと!子ども扱いしないでくれる?」 「ごめんごめん〜」 もう!と言いながら、つくしは自分のコップを手に取り、お茶を一口飲む。七深の方へ視線を戻すと、彼女がテーブルの方を見つめながら、どこか遠い目をしていることに気づく。 「……ななみちゃんどうかした?練習で疲れちゃった?」 「え?ううん、全然元気だよ〜?」 「そう?ならいいんだけど、ななみちゃん、なんだか寂しそうな顔してたから……」 心配そうな表情でこちらを覗くつくしに、七深は笑顔を作って答える。 「それは逆だよ〜、今すっごく良い時間だなって思ってたの」 「こうやって練習して、お茶飲みながら休憩したり……」 取り繕った笑顔が、徐々に下を向いていく。コップに敷かれたコースターが目に映る。 「遊びに行ったり、ご飯食べたり、おしゃべりしたり……つーちゃんと二人で」 「私と……?」 「Morfonicaのみんなのことは大好き。いっつも楽しくて幸せ……でも、つーちゃんと二人でいると……それとは別の色の幸せを感じるんだ……これって、変だよね……」 すっかり眉を下げた七深が顔を上げると、つくしの真っ直ぐな瞳に見つめられる。 「それは、普通──じゃないね」 喉の奥で声が詰まる。かつて悩み──Morfonicaで解かれたその言葉に、七深の視界の隅が歪む。 「でも同じだよ」 「同じ……?」 「そう、私もMorfonicaのみんなが大好きだし……ななみちゃんと一緒にいるの、すごい楽しい。だから、私も同じ……だからそんな悲しい顔しないで」 つくしの手のひらが、七深の顔に触れる。七深の頭が、ゆっくりとつくしの方に寄せられていく。 「……同じか〜」 「うん、同じだよ」 少し狭く──とても温かいつくしの腕の中で、七深はとても穏やかな笑い顔をしていた。 ────────────────────── 『リサさよ 1』 ────────────────────── 「紗夜、おまたせ」 「今井さん。いえ、時間通りですよ」 ライブハウス近くの駅前、少し遠くを見つめる紗夜の後ろから、リサが声をかける。 「何か見てたの?」 「あ、いえ。向こうに花咲川の制服の人たちを見かけまして……」 「へ〜……お、楽器ケース持ってる!バンドカップルだ〜」 「今井さん!そういう決めつけは……!そもそもジロジロ見るのも失礼ですよ!」 リサの腕をとり、その場を離れようと促す紗夜。先を歩く紗夜を追いかけながら、リサは宥めるような声で話す。 「ごめんごめん〜、でも紗夜だって見てたんでしょ?」 「わ、私はただ母校の制服を見て懐かしくなっていただけで……」 「えー意外〜、紗夜もそういうこと思うんだ」 「私をなんだと思っているんですか……」 「まあでもそういう気持ち分かるな〜。現にアタシも今同じ気持ちになったもん」 「?……今井さんは羽丘でしょう?」 「違う違う、私が思い出したのは制服着てた頃の紗夜のこと!」 「……どういうことですか?私?」 「いや〜あの頃の、セーラー服姿の紗夜は可愛かったな〜って」 「なっ、突然何を言うんですか!」 思いもよらぬリサの返答に、思わず頬を紅潮させる紗夜。狼狽する紗夜の隣で、リサは思い出に浸るような様子で話を続ける。 「え〜?だって紗夜ったら私服はいっつもきっちりしてるからさ〜、セーラー服みたいな可愛い服着てるの見るの好きだったんだよね〜」 「私をそんな目で見てたんですか!?」 「あ、そうだ!バンド練の前にちょっと服屋さん見に行こうよ!紗夜の服選ばせて?」 わざとらしく手を合わせながら、ちらりと紗夜の顔色を伺うリサ。難しい顔で紗夜が答える。 「はあ……早めに行って二人で音合わせしたいと言ったのは貴女でしょう。寄り道せずスタジオに向かいますよ」 「は〜い……」 「……服選びについては……今度の休みにいくらでも付き合ってあげますから」 顔に浮かんだ気恥ずかしさを隠すように、紗夜は歩くスピードを早める。一拍置いて、言われたことの内容を理解したリサの顔が、ぱぁと明るくなる。 「……え!ホント!?も〜紗夜だいすき〜……って、ちょっと待ってってば〜紗夜〜!」 ────────────────────── 『パレロク 1』 ────────────────────── 「ロックさん、撮影お疲れ様ですー」 「あ、パレオさん。おつかれさまです!」 撮影スタジオの控え室にて、既に撮影を終えて一休みしていた六花にパレオが声をかける。 「パレオさんはもう終わっちゃったんですか?」 「ええ。ありがたいことに一発OK頂きまして」 どこかのアイドル雑誌から飛び出してきたようなポーズをとりながら答えるパレオ。 「さ、さすがや……」 「ロックさんも綺麗に撮れていたじゃないですか〜!」 「でも、撮影だとまだまだ緊張しちゃいますよ……!やっぱりギターを握っている時が一番落ち着きます……」 ギターを抱えるように持ち、柔らかな笑顔を見せる六花。それを見つめるパレオ。 「……うーん、やはりロックさんの楽屋裏のこの雰囲気を堪能できるのはメンバーの特権ですね〜」 「え?」 「大好きなポピパの話をにこにこ笑顔で話される普段のロックさんも、ステージの上で華麗にギターを演奏する真剣な眼差しのロックさん、どちらもとっても素敵ですが……」 ころころと表情とポーズを変えながら喋り続けるパレオ。一体何を言われているか理解できなかった六花だったが、徐々に言葉の意味を理解していき、それと同時に爆発しそうな熱さが顔に昇っていく。 「楽屋裏のこのなんとも言えない愛らしさのロックさん、とっても素敵ですよ」 「パ、パレオさん……!?冗談が過ぎますよぅ!」 「冗談……?はて、パレオは冗談なんて言っていませんよ?」 「……え、えぇ〜!?」 既に理解の範疇を超え、顔を真っ赤にして狼狽する六花の側にパレオが近づく。六花の顔の熱さが伝わるほどの距離に、パレオの顔が。 「ロックさんの素敵なところ、このパレオだって存じ上げているのをお忘れなく……」 指を唇に当て、軽くウインクをしてみせるパレオ。その蠱惑的な瞳に捉えられ、六花は声も出せずにその場で固まるしかなかった。 「……ではでは、パレオはまだ雑務が残っていますので。ロックさんはもうしばらく休んでいてくださいね!」 そう言いながら、パッとにこやかな表情を作り、その場を後にするパレオ。 ようやく平常心が顔をのぞかせた頃。撮影が済んでいて本当に良かった──と、まだ熱いままの頬に手を触れながらそう思うと同時に、きっとこういうことを想定してないパレオではないな、と──自分とパレオ以外入ってこなかった部屋で──思った六花だった。 ──────────────────────