「全く…こいつの能力、本当に趣味が悪いわね」 群がるデジモンを断罪の槍で薙ぎ払いながらレーベモンが悪態を吐いた。 その瞳の先には彼らのボスと思われるネクロモンが鎮座している。 ネクロモン__ゴースト型デジモンの王と形容される事もある存在で、これまで喰らってきた数多のデジモン達を霊体として召喚、使役し物量に物を言わせた戦法を得意とする。 どうやらレーベモンこと橘樹 文華はそのネクロモンの召喚した霊体達と刃を交えている様だ。 「あとは任せたわよ。織姫さん」 「えぇ、言われずとも心得ております。」 レーベモンの背後から跳び出すもう一人の闇の闘士ダスクモン__千年桜 織姫。 「エアオーベルング!」 彼女が技の名を高らかに叫ぶと同時にデジモンの霊体達は次々と両腕の妖刀に吸収されていく。相手の得意な戦術を逆に利用し、糧とする事で自らを強化する……これこそが織姫の狙いだ。 一瞬にして手駒を全て失ったネクロモンは負けじと再度霊体を喚び出し戦況を覆そうと試みるも、この行為は正に敵に塩を送る悪手と言っても過言ではない。 何度も兵力の増強を図っては召喚を繰り返し、取り返しのつかない事態にまで追い込まれている事に気付かされたネクロモンはヤケクソになって「グレイブレイド」を振りかざし、ダスクモンに襲い掛かった。 しかし、こと剣戟においてはバカデカいなまくらを乱雑に振るうばかりのネクロモンが技量でダスクモンに敵う筈もなく、軽くいなされたところを一太刀、また一太刀と流れる様な連撃を浴びせられた末に地べたに転がされてしまう。 「……目的は果たしました。もうあなたに用はありません…。逆井さん、事後処理は頼みましたよ。」 戦いは決した。そう言わんばかりにネクロモンに背を向け、歩を進めるダスクモンとそれに続くレーベモン。 相手が悪かったとは言え、終始ペースを乱されたままやられっぱなしでは収まりが付かないのか、ネクロモンは激昂した様に立ち上がり再び大剣を振り上げた。 だが次の瞬間、どこからともなく放たれた一筋の光がネクロモンの手首を貫き、得物が握られたその左手を消し飛ばした。 たかが腕一本。とでも言いたいのであろうか…尚も二人へ向かって行くネクロモンであったが、彼にとってはまたしても相手が悪かった。 光弾を放ったのはヴォルフモン。逆井 平介が御神体を用いて進化した光の闘士である。 その肩書きが示す通り、彼の技は全てが光属性。ネクロモンにとっては少し掠っただけでも十分に致命傷となり得る代物だ。ましてやそれをもろに受けてしまったのだからひとたまりもない。 傷口から徐々に、まるで糸が解れるかの様にネクロモンの身体は消え失せ、怨嗟の叫びを上げながら果ててしまった。 戦いを終え進化を解いた織姫と文華は少し離れた場所から狙撃していた平介とも合流し、帰路へと着いた。 夜も更け人通りの無い道を往く三人の闘士。 そんな最中、平介がふと立ち止まり疑問に思った事を口にする。 「織姫さん、そろそろ教えてくれても良いんでねが?なしてこだいネクロモンばかし… さっき倒したやつでもう5体目だべ…」 「そうね。詳しい事情も聞かされないままというのも腑に落ちないわ」 文華もそうだそうだと言っている。 二人の言っている事は尤もだ。流石にここまで付き合わせておいて理由の一つも話さないのは不誠実が過ぎるだろう。織姫は静かに語り始めた。 「実は私、嫌いなんですよ。ネクロモン」 「……へ?」 文華と平介、二人の口から思わず素っ頓狂な声が出てしまう。 たったそれだけの、まさに私怨としか言えない様な理由で夜中に連れ回された挙句、喰らえば即死の危険な武器を持ったデジモンとの戦いに駆り出されたというのか… 説明を受けても尚、文華は腑に落ちなかった。 が、それ以上に納得が行かない様子なのは平介の方だ。彼の性格上、徒に命を奪う様な行いは許せる事ではない。ましてや自分がその片棒を担がされたとなると尚更だ。 涙ながらもひしひしと憤りの感情が平介から伝わって来る。  だがこうなる事は織姫にとって無論想定の範囲内だった様だ。織姫は平介の反応を楽しんでいるが如く更に火に油を注ぐ様な発言をぶっ込んで来る。 「えらくお怒りの様ですね、逆井さん。ではその怒りを次のネクロモンにぶつけて下さい。 ネクロモンの生態なら事前にお話しましたよね? あなたにとっては度し難い外道を…私にとっては忌むべき相手を退治出来るのですからお互いウィンウィンというものでしょう?」 「………」 痛いところを突かれ、閉口してしまう平介。腸が煮えくり返りそうになっている一方で、ネクロモンの生態というワードがとてもよく効いている様だった。 織姫から事前に聞かされていた様にネクロモンの召喚する霊体は即ちネクロモンの手に掛かり犠牲となった者達だ。 その夥しい数を実際に目の当たりにしてしまった以上、それを捨て置く事も平介にはできない。 そんな傍ら、文華は心底帰りたそうにしている。 「(この話、早く終わんないかな…。それにしても織姫さん、今日はやたらと逆井くんにきつく当たるわね。生理かしら?)」 などと場違いな事を文華がぼんやりと考えていたその時、織姫の背後から女性の声がした。文華や平介、織姫もよく知る人物の声だ。 「織姫ちゃん?あんまり平介くんに意地悪しちゃダメだっていつも言ってますよね?」 「な、奈良平さん…?」 織姫が恐る恐る振り返った先に居たのは声の主、奈良平 鎮莉__織姫とは恋人関係にある愛しの彦星様だ。 「いえ…別に意地悪をしていたというわけでは…ただ今回の戦いにおいては逆井さんの甘さは命取りになると再三言って聞かせた事を改めてお話しようt「そうなのよ、めっちゃ逆井くんの事いじめてたのよ。特に今日のは度が過ぎてると私でさえ思うわ。」 何とか取り繕う様に努めた織姫の言葉を遮る様に文華が話し始める。 文華は文華で織姫の人使いの荒さに辟易していたので、ここいらで少し意趣返しでもしてやろうという腹積もりだったのだろう。 「クサァ!!」 思わぬカウンターを喰らい滑舌がおかしな事になってしまう織姫。 「橘樹ァ!!ではありませんよ、織姫ちゃん!心配して探しに来て見れば……!平介くんの事もそうですが、その身体で無茶したら駄目だって再三言って聞かせましたよね?お腹の子に障ったらどうするつもりなんですか!?」 「奈良平さん、ほだいごしゃがなぐても…ほだな事情があるならおれ達に協力を申し出たのも納得………………?」 声を荒げて織姫を叱る鎮莉を宥める平介だが、何かが彼の頭の中で引っかかる様だ。 それは文華も同様で鎮莉の言葉の意味を懸命に飲み込もうとしている。 そして…… 「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」 ようやく理解が追い付き、両者共に驚きの声を上げてしまう。 「お二人ともうるさいですね…。近所迷惑ですよ、今何時だと…」 「いや、だってお腹の子って…どういう事なのかちゃんと説明しなさいよ!逆井くんがびっくりし過ぎて失神しちゃったじゃない!」 文華の言う様に平介は驚きのあまり気絶してしまった様で、文華の豊満な胸を枕にする様に倒れ込んでいる。 「奈良平さんがプロキシマモンにマトリックスエボリューションした時……ですね。 その際に放たれるエネルギーの余波とこの私、ダスクモンのエアオーベルングとが結び付いた結果でしょう…。あの時確かに私の中で命が芽吹くのを感じました。」 「ごめん。ちょっと何言ってんのか全然わかんない。」 織姫的にはとても分かりやすく懇切丁寧に説明しているつもりなのだろうが、内容が内容だけに肝心の文華には全く伝わっていない。 「やっぱりそうなりますよね〜。でも安心して下さい文華ちゃん。私にも全然わかりません。」 「え!?良いの!?それで!」 「形はどうあれ私と織姫ちゃんの子……である事には変わりないですからね〜。」 「えぇ、奈良平さんはこういうのも私らしくて良いのではないかと快く受け入れて下さいました。ありがとうございます、私の彦星様…」 もうついて行けないわ。と言いたげな表情で文華が頭を抱えるも、織姫はお構い無しに話を続ける。 「それと…この際ですのでネクロモンばかり集中的に狩っていた理由も詳しくお話しておきましょう。もう黙っておく必要も無くなりましたので…」 「何よ?お腹の赤ちゃんと何か関係でもあるわけ?」 思い返せばネクロモンとの戦闘の際、決まってダスクモンは多量の霊体を体内に取り込んでいた。そして織姫の意味不明な理由での懐妊。そこから導き出される答えなど一つしか無い。文華にはおおよその察しがついていたものの、話してくれるというのだからとりあえず尋ねておく事にした。 「御名答。実を言うとネクロモン自体はどうでも良かったのですよ。私の真の狙いはあれが召喚した霊体……産まれてくる我が子には栄養を沢山与えてやる必要がありますかr「もういいわ。わかったから。」 あまりにも予想通り過ぎる返事が返ってきたので文華は織姫の話を遮った。そして自身にもたれ掛かっている平介がいい加減鬱陶しくなってきたので、両肩を掴んでその身体を激しく揺すった。 「ちょっと逆井くん、いつまで寝てるつもり?いい加減起きなさい」 「はぇ??」 平介の首がガクンガクンと揺れ、間の抜けた声を出しながら目を覚ます。 「今日はもうお開き!帰るわよ逆井くん。」 「ん、んだ…」 状況を飲み込めず、一人暗がりへ去って行く闇の闘士をただ見送る事しかできない平介。 「では私達もこれで。本日はご協力頂きありがとうございました、逆井さん。 …奈良平さん、今晩は泊めていただいても宜しいでしょうか?」 「えぇ、勿論ですよ〜」 そしてもう一人の闇の闘士が愛しの彦星と共に奈良平宅へ向かおうとしたその時であった…。 ---Lin-Link My Lin-Link My Lin-Link My Ring 信じる者がナンバーワン--- 「織姫、ようやく見つけましたわよ!」 まるでずっとそこに居たかの如く、突如として現れたのは千本桜 冥梨栖。織姫の従叔母に当たる人物だ。 「姉様…一体何の用ですか?」 「デジモンイレイザーを潰しに行きますわよ!」 「はぁ……またですか…」 親戚からの突然の誘い。織姫としても今日は色々と駆け回ってお疲れなので遠慮しておきたいところだが、先に口を挟んだのは鎮莉だった。 「ダメです!今の織姫ちゃんにあまり無理はさせられませんから。」 「そういえばそうでしたわね。失礼、思慮が足りませんでしたわ。では……」 事情を知っているのか、冥梨栖はやけにあっさりと引き下がった。 そしてそんな彼女が次に向けた視線の先には…… 「えぇっ!?おれ!?」 ---“ほんとう”だけは隠せないから--- Next no.1 battle!! まだまだ続く!?逆井平介の女難! 「あなたのお手並み…拝見させていただきますわよ、平介さん。そこの日竜将軍を倒してご覧なさい。」 「そんな無茶苦茶な…」 「シュウ、どうした?」 「何かとてつもなく嫌な予感が…」 貰い事故!?祭後終の女難! そしてやっぱり!デジモンイレイザーは災難! 「さぁ!蹂躙の時間ですわ!」 第××話『ひきょうもの!日竜将軍は泣いた』 Ready go!! ---信じる者がナンバーワン---