※注意 「お母様が言ってた。怪文書を読む時は部屋を明るくして画面から目を離して読む様にって…。それから、長時間に渡って画面を見つめ続けるのも禁物…適度な休憩を挟んで無理の無い様に…。みんなも守ってほしい。キャスとの約束…」 ____________________ 大峠 佳織ちゃんはかっこいいヴィランに憧れる小学五年生の女の子。キャス子ちゃんこと木末 聖煌ちゃんに懐かれすっかり面倒見の良いお姉ちゃんになっていますが、敵役としての矜持は今でもしっかり心の中にその火を灯しています。 今回、佳織ちゃんが目を着けた相手は……? 「よし、相棒!今日はあの子にしよう。」 「わかったよ、アネゴ!」 ここは木々の生い茂る森の中。視界は悪いですが佳織ちゃんが指差す先には確かに一人の小柄な女の子と大きな蟹の様なデジモンの姿がありました。 そこに居るのは誰の目から見てもわかるほど気の弱そうな女の子、連れている甲殻類型のデジモン__ガニモンもそこまで強そうには見えません。 佳織ちゃんもヌメモンも今回ばかりは勝利を確信していました。 すぐにでもあの子の目の前へ出て行って勝負を吹っ掛けようと意気揚々としています。 ですが、この場所に一人置いて行かれると思ったのでしょうか?佳織ちゃんが着ている服の裾をキャス子ちゃんが掴み、かぶりを振りました。 「大丈夫だよ、キャス。あたしはあんたを置いて行ったりなんてしないから」 心配ないよと佳織ちゃんがキャス子ちゃんの頭を優しく撫でてやりますが、キャス子ちゃんの目は何か別の事を訴えようとしています。 一体何事かともう一度女の子の方へ視線を向ける佳織ちゃん。ここでキャス子ちゃんの言わんとしていた事がようやく理解できました。 さっきは大きな木で隠れてよく見えませんでしたが、女の子の他にもう一人居たのです。妙な形のおかしな烏帽を被り、いかにも時代錯誤でおかしな服装をした顔面白塗りのおかしな男の姿がそこにはありました。 一体何を話しているのでしょうか?佳織ちゃん達は身を潜めながら近付き、聞き耳を立てます。 「出ておじゃれ!隠れていても選ばれし子供は臭いでわかりまするぞ!」 ですが佳織ちゃんの努力も虚しく、速攻でバレました。 「嘘!?なんでバレた!?」 白塗りの男はガニモンを連れた女の子から佳織ちゃんとキャス子ちゃんに狙いを変えます。 男の意識が完全に二人へと向いたその時でした。突然女の子が白塗り男に向けて拳を振るいました。 女の子のパンチが見事に命中……するなんて事は無く、拳は男には届きません。 ところが白塗りの男はまるで強烈なボディブローでも喰らったかの如く蹲ります。 続けざまに女の子はもう一撃加えました。やはり振るった拳は白塗りには届かないものの、今度はその烏帽がひとりでにポッキリと折れました。 この展開は白塗りの男にとって相当予想外の出来事だったのでしょうか?豆鉄砲を喰らった様な顔のまま完全にフリーズしてしまいます。 「しめたっ!!今のうちに逃げるよ!」 佳織ちゃんは米俵を抱える様にキャス子ちゃんを持ち上げると女の子のところまで駆け寄り、小さなボクサーさんも同様に抱えて走り出しました。 ヌメモン、チョコモン、グミモン、そしてガニモンも佳織ちゃんのあとに続きます。 我に返った白塗り男が再び追いかけようとするも時すでに遅し。完全に距離を離され、もはや追う事は叶いません。 薄暗い森の中、一人残され呆然と立ち尽くす男は気が動転したのか、突如として舞いを踊り始めます。 「ちゃんちゃかちゃんちゃんちゃちゃんちゃちゃんちゃん♪ ちゃんちゃかちゃんちゃんちゃちゃんちゃちゃんちゃん♪ 選ばれし子〜どもを一網打尽にしようと思ったら〜〜 謎判定パ〜ンチでゴリ押しされました〜〜〜 ……チッックショォォォォォォォ!!!」 ____________________ ここまで来ればもう一安心。 二人の女の子を降ろした佳織ちゃんは助けたガニモンのパートナーさんから事情を聞きます。 この女の子、名前を蟹江 真珠ちゃんと言って佳織ちゃんやキャス子ちゃんと同様、デジタルワールドに迷い込んでしまった選ばれし子供の一人との事。 「そっか〜、あんたも色々と大変だったんだ… ガニモンと二人でよくここまで頑張って来たね。偉いぞ!」 佳織ちゃんは真珠ちゃんに対しても持ち前のお姉ちゃん力を惜しみなく発揮。真珠ちゃんの頭を優しく撫でてあげます。 そんな二人を面白くなさそうな様子で見ている子が約一名。やきもちで頬を膨らませ、まるでリスの様です。 「もう…ほら、あんたもおいで。」 流石のお姉ちゃん力。キャス子ちゃんの扱いも完全に理解しています。 言われるがままキャス子ちゃんは佳織ちゃんの側まで寄り、力一杯抱きつきました。 「ちょっ…キャス、痛い痛い。力強いって!」 そんな二人の仲睦まじい様子を見た真珠ちゃんは緊張が和らいだのか、思わず笑みが溢れます。佳織ちゃんも一安心です。 「(良かった。笑ってくれた。)……だから痛いって!」 しかし、そんな楽しい時間もいつまでも続きませんでした。 「なぁ、水を差す様で悪いんだけどよ……俺達、完全に囲まれてるぞ…」 ガニモンからの指摘を受け、周囲を見回す一同。 確かにガニモンの言う通り、木々の隙間から一匹また一匹と成長期の哺乳類型デジモン__ガジモンが顔を覗かせています。 「あんた達が選ばれし子供って奴ねん。このアチキの森に無断で入って来るなんて良い度胸してるじゃないの!」 突如爆音で鳴り響くBGMと共に颯爽と現れたのはキングエテモン。全身金ピカの猿スーツを着込んだ変なオカマです。 それでも究極体というだけの事はあり、只者ではないオーラが漂っているのは事実。最年長の佳織ちゃんは自分がしっかりしなきゃと警戒を強めます。 「もうそんなに怖い顔しないでくれるかしらん?こう見えてもアチキは淑女。できる事なら手荒な真似はしたくないの」 「じゃあ何?なんであたしらを包囲するみたいな事してんの?」 「この森のデジモン達にも面子ってもんがあるの。ズカズカ上がり込んで来た余所者に好き勝手されちゃそれを潰されたも同然!文句があるなら力で黙らせるしかない……そうしてアチキはこの森の王になったのよ!!」 キングエテモンの隙あらば自分語りが始まりました。佳織ちゃんら子供達とそのパートナー達にとってキングエテモンの身の上話など知った事ではありません。 どうでもいい長話に痺れを切らした佳織ちゃんはとうとうキングエテモンに突っかかってしまいました。 「で、結局何が言いたいの?本題だけ教えてくれない?」 「つまり!あんた達にアチキと同じ事をやれと言われても到底不可能!だからアチキとジャンケンをして勝てたら見逃してあげる!って事でどう?」 「いいじゃないの!やってやるわよ!」 舐められている様で少々癪ではありますが相手は究極体、穏便に済ませるに越した事はありません。 佳織ちゃんは受けて立つとばかりに一歩前へ出ました。 しかし… 「私がやる…!」 なんと、真珠ちゃんが名乗り出たのです。 「えぇ、でも…」 「真珠にやらせてやってくれ」 佳織ちゃんは始めこそ渋っていましたが真珠ちゃんとガニモンの熱意に負け、キングエテモンとの勝負を譲る事にしました。 しかし、ここでキングエテモンから待ったが掛かります。 「ちょっと待ちなさい!そこのお嬢ちゃんの曖昧過ぎる当たり判定のパンチ、アチキが知らないとでも思っているのかしらん? グーを出すフリしてぶん殴ってそのままトンズラ…なんて事されたんじゃ適わないわ!」 どうやら森に入ってから今までの行動は全て筒抜けの様です。 それもその筈。この森の王様なだけの事はありキングエテモンは森全体に情報網を張り巡らせているみたい。なので森で起きた出来事はすぐさまキングエテモンの耳に入るのです。 「というわけだから、こいつで勝負よ!」 勢いよく指を鳴らすキングエテモン。その合図と共にガジモン達が何かを運んで来ます。 「これって……」 『ジャンケンマン』。古いゲームセンターなどで稀に見かける事のあるメダルゲームです。 なるほど、これなら確かに真珠パンチで事故る事もありません。 「真珠、行ける?」 「……うん」 「頑張って!」 ゆっくりとゲーム機へ向かう真珠ちゃんに佳織ちゃんが激励の言葉を贈りました。 キャス子ちゃんもパンダモンのぬいぐるみを揺らしながら応援しています。 「さぁ、始めましょうか!一対一の真剣勝負を!」 ジャンケン勝負を始めるべく、キングエテモンと真珠ちゃんが対峙したその時です。 「いざ掴め!ナンバァァーーーーーーワァァァァァァァァァァァァァン!!!」 「ゴー!ゴー!イモゲンチャー!」 謎の衣装に身を包んだ少年、八北 一着くんが謎の応援団を引き連れて突然現れました。 「読み合いならば誰にも負けない! 相手の先読み更に読み、ジャンケンポンで天下無双! 王の中の王、キングエテモン!あんたの運もアチキのもの」 不意の出来事にも関わらず、キングエテモンは一切動じる事無くノリノリで名乗りを上げます。 さて次は真珠ちゃんの番。大丈夫でしょうか? 「旅で育む確かな強さ 友との邂逅(であい)が齎すは、揺らぐ事無き己が意志… 月の雫…蟹江真珠。珠玉で最たる輝きを…」 真珠ちゃんも無事名乗る事ができました。頑張ったね、真珠ちゃん! 『ジャンケンマンナンバーワンバトル!レディーーーーーーゴー!!』 開始のゴングが鳴り、戦いの火蓋は切って落とされました。 用意された筐体にそれぞれ向き合い、メダルを投入します。 『ジャンケンポン!ズコー』 『ジャンケンポン!ズコー』 『ジャンケンポン!あいこでしょ!ズコー』 『ジャンケンポン!やっぴー!』 『ジャンケンポン!ズコー』 真珠ちゃんとキングエテモン、両者一歩も譲らぬ戦いが繰り広げられています。ですが二人揃って黙々とメダルゲームに取り組む様は絵的に地味な事この上ありません。 心底退屈していたキャス子ちゃんは眠そうに欠伸をしながら目を擦ります。それを察した佳織ちゃんは姿勢を低くして自分におぶさるようキャス子ちゃんに促します。 「眠いなら寝てなよ。あたしがおんぶしててあげるからさ」 「……ん」 キャス子ちゃんはお言葉に甘えて佳織ちゃんの背中に乗り、静かに目を閉じました。 その後、ナンバーワンバトルは大した盛り上がりも無ければこれといったドラマも無く、普通に真珠ちゃんの勝利に終わりました。 『Winner!蟹江 真珠!!』 勝者を宣言すると同時に一着くん御一行もそそくさと撤収して行きます。 「やったじゃん、真珠!」 「ありがとう…。お姉さん」 「ちょっとちょっと!何なのよ!あんたズルしたんじゃないの!?」 しかしキングエテモンは結果に納得が行かないご様子。真珠ちゃんが人に対してあまり強くものを言えないのをいいことに難癖をつけて来ます。 「言い掛かりはやめてくれない?勝ったのは真珠なんだから、ちゃんと約束は守ってよね!」 「お黙りっ!!」 約束を反故にしたキングエテモンが佳織ちゃんに向け拳を振り上げます。 その時… 「グミモン……!」 「任せろい!」 キャス子ちゃんが目を開き、グミモンの名を叫びました。 呼びかけに応じたグミモンがピニャタモンへと姿を変え、目から怪光線を放つとあら不思議。一瞬にしてキングエテモンがピニャタモンと同じ姿のピニャータになってしまいました。 「ちょっと!?何なのよ、これ!?元に戻しなさいよ!!」 「…………お黙り」 ピニャタモンは更にウェンディモンに姿を変えるとキングエテモンだったピニャータを空高く放り投げ、それを追いかけます。 ---佳織ねぇねを傷付けようとする奴は許さない--- そんなキャス子ちゃんの怒りに同調するかの様にデジヴァイスが光り輝き、ウェンディモンに更なる力を与えます。 『ギャストリーロコモン』 超進化したグミモンの新たな姿。骸骨を思わせるフォルムと死者の魂を黄泉の国へと運ぶというその性質はまさに幽霊列車です。 ギャストリーロコモンは汽笛を鳴らしながらピニャータの落下点目掛けて爆進。放物線を描きながら落ちて来たかつてのキングエテモンと物凄い勢いで正面衝突し、さっきまで猿の王様だったロバを木っ端微塵に粉砕してしまいました。 ---Lin-Link My Lin-Link My Lin-Link My Ring 信じる者がナンバーワン--- 倒された主の弔い合戦でしょうか? ガジモンの群れがわらわらと出て来たかと思うとキャス子ちゃん達を取り囲みました。 チョコモン、ガニモン、佳織ちゃん、そしてキャス子ちゃんは来るなら来いとばかりにガジモン達を睨みつけます。 するとどうでしょう。集まったガジモンの群れは一斉にキャス子ちゃんの方を向いて膝を付き、頭を垂れました。 「ん我が王。今からあなた様が我らの主君です。」 森の中では力が全て。彼等はキングエテモンを破ったキャス子ちゃんを新たな王と認めた様です。 『え〜、王って何か可愛くないからやだよ〜』 キャス子ちゃんは口元をぬいぐるみで隠しながら首を横に振りますが満更でもなさそうです。 「では何とお呼びすれば…姫…とか?」 『何か違う。』 「皇女殿下!」 『堅苦しい。』 「それでは……おひいさま!」 『おひいさま…』「…………良いね、それ。気に入った。」 その直後、Uターンして戻って来たギャストリーロコモンがキャス子ちゃんのすぐ真後ろで停車。 車体から漏れ出た青い炎はキャス子ちゃんの姿を妖しく照らしていました。 ---“ほんとう”だけは隠せないから--- Next no.1 battle!! 開催!夏祭りinアリーナ!! 「佳織ねぇね、あれ買って…」 「ミントモンのお面!?あんなのが欲しいの!?」 「サタノダイナモンです!今日はいっぱい楽しんで行って下さいね!」 「こ・よ・い・ほ・し・が・またたい… …っていってるばあいかーーぃ!!」 「さぁさぁ!カーボン冷凍したデジモンイレイザーのジャンボ型抜きですわよ!是非遊んで行って下さいな」 「首が、もげたぁぁぁぁぁ!」 特別編『夏のアリーナはそりゃ大変だ!』 Ready go!! ---信じる者がナンバーワン---