エル翻訳 ■Early Bird’s Treat 静寂が全てを包み、果てしない闇が全てを飲み込む。 ???:さあ、目覚めよ。 誰かの声が響くと、純粋なる闇と虚ろな空間は即座に消し飛んだ。 ???:我が肉体より生まれし子よ…。 我が使命を代わりに果たすのだ…。 数え切れない疑問が渦を巻くが、彼は何の言葉も発することはできなかった。 未知なる声は遠くに消え入り、静寂が侵入して押さえつけ、声を塞いだ。 彼が何かを為すべきだと気付くまで、どれほどの時間が経過したのかは誰も知ることはなかった。 「彼」は徐々に消えつつも、自分の精神を暗闇の遠くへと投射した。 「世界は光に満ち溢れている、ロココ、素敵で素晴らしいメロディに変わりながら〜♪」 「力強い人が暖かく抱きしめてくれる、時間も果てもない夢の中で迷っても〜♪」 剛久:! うぅ…変な夢を見た…。 今何時だ…? もう8時か。仕事に行くには早すぎるけど、とにかく起きなきゃ。 さあやるぞ! 1、2、3…。 98…99…。 100! ふぅ、これで朝の腕立て伏せ終わり! うん、シャワーを浴びて出かける前に… 今日の朝は何をオカズにしようかな〜? 剛久はベッドに座ると、スマホでOnifansの画面をスクロールしながら、片手でゆっくり一物をしごき始めた。 剛久:「牛社長の乳搾り体験」…「既婚馬獣人のセックスデリバリー」…「征嵐倭国出身の野郎の激エロ射精」…これもいいな…。 最近のはどれも過激だよな、俺でもちょっと引くほどだ。 あっ!「熊緊縛乱交」! 気に入った動画を見ながら、剛久は一物をしごいた。ジョックストラップの生地が前後に引っ張られて、亀頭の先端を刺激する。 男優:「お゛っ!あああっ!そこいいっ!チンポで頭おかしくなるっ!」 剛久:くっ…すげぇガタイだ…腕もムキムキで… 髪も毛皮も毛並みが良くて… はぁ…んっ…すげぇ…! 剛久は男優の胸筋が弾むのを見ながら一物をしごき、喘いだ。彼のかすれた喘ぎはただただ快楽に溺れる男のそれだった。 男優:「いい!中にくれっ!!ぶっとい鬼チンポでケツ壊れちまう、ああああっ!!」 「極太鬼チンポのことしか考えられねぇ!あんたの精液便所にしてくれ!はぁっ、ああんっ!」 「もう…普通のチンポじゃ…満足できなくなっちまうよぉ…!」 「んぐぁっ!?」 男優は熱り立つ鬼の竿に突かれながら、他の巨根を口中にねじ込まれた。 男優:「んぶっ!?ぐがっ…!」 剛久:この男優、メスみたいに腰振ってやがる…すっげぇ…この乳揺れも…はぁ…はぁ…っ…。 夢中になった剛久は先走りで少し湿ったジョックストラップを脱ぐと、荒々しい雄の匂いを立ち上らせるほてった一物が露わになった。 剛久:んっ、おっ、ああっ… 情欲が剛久の頭を支配する。スマホの画面にはあられもない交尾と、性器から放たれた快楽の証だけが映し出されていた。 剛久:ん…っ…少し速度を上げようか…。 剛久のたくましい尻は一物をしごくリズムに合わせて震えた。彼の一物は滲んだ先走りで光っている。感触は強くなり、そしてぬるついていく。 ストロークのたびに快楽は強くなり、電撃のような絶頂感が波をなして一物を駆け巡り、彼の脳を揺さぶる。 男優:「ああああっ!もっと!ああっ、んっ、んあああっ!」 男優は彼を囲む男根をまるで娼婦のようにねだる。そして逞しい鬼は男優の喘ぎに合わせて彼をさらに激しく突く。 子種が詰まった鬼の玉袋が、ウケ男優の汗ばみ情欲に狂った体に打ち付けられるのを見て、剛久はますます興奮を強めていく。 ポルノ映像から流れる淫らな喘ぎ声が、剛久の呟くかすれ声と混じり合い、部屋を猥雑な空気で満たす。 剛久:んっ…あっ…ああっ…! いい…すげーエロい…でも…んっ…! まだ足りない…はぁはぁ…もっと欲しいっ…!もっと…! チンポの先舐めてくれ…そうだ…いいぞ…! おっ、ふぅっ、ああっ!! 剛久は縛られ喘ぐウケの熊獣人を凝視する。自分に服従し、先走りを喜んで啜るようになった彼を妄想する。 剛久:いいぞ…はぁっ…んっ…上手いじゃねぇか…。 上から下まで…んっ…全部しゃぶれよ…! 「んむっ…チンポうめぇ…んっ…でけぇ…!」 男優は鬼の一物に蹂躙され尽くしたようで、快楽によって我を失い、その眼はうつろだ。 男優がぐったりし、突かれていた穴が緩んでいるのを見ると、鬼は彼を強く縛る縄を引っ張った。強烈な刺激が彼を襲う。 縛られているときには、小さくつねられるだけであっても大きな反応を引き起こすものだ。ましてこのように容赦なく引っ張られたのだから、その効果は絶大だった。 男優:「ああああああああっ!!」 剛久:くそっ…この動画めちゃくちゃいい…こいつらどうすればいいのか完全に分かってる…カメラアングルも完璧で…!あっ、はぁっ…んんっっ!! 男優:「チンポ…んっ…チンポぉ!もっとくれぇ!ザーメンほしいっ!」 男優が泣きながら鬼に精液を懇願する様を見て、剛久はまるでトラックにはねられたような衝撃を覚えた。それが彼の、荒々しく本能的な情欲を解き放ったのだった。 剛久:ふっ…おおおおっ! やべえ、イくっ! 中に出すぞ、しっかり孕めよ! 剛久、男優:あああああっ!!んおおおおおおっ!! 男優:「はぁ…はぁ…はぁ…」 「ああ…へへへ…ザーメンこんなに…うめぇ…」 男優は恍惚とした表情で口の周りについた鬼の精液をすくい取るとそれを舐め、カメラに向かってそのご褒美をいやらしく見せつけた。 剛久はそのイカれたフィナーレを満足と解放感に浸りつつ見ていた。 男優:「今回の撮影は正直言って恥ずかしかったですね。…」 エロ動画の撮影後インタビュー…多くの人は飛ばしてしまうものではないだろうか。 興奮が鎮まりかえった剛久は、ふとスマホをオフにすると日光を浴びた。完璧な朝だ。 剛久:ふぅ、朝オナニーは最高だな、めちゃくちゃ清々しいぜ! よし!シャワー浴びて出かけるか…。 ちょっと待った!今何時だ!? スマホの電源を切ったときに剛久は時間のことを思い出した。すでに仕事に出かける時間を過ぎていたのだった。 剛久:あーーーっ!遅刻する!! 剛久はティッシュを掴んで急いで精液を拭き取ると、汗はそのままにドアを飛び出していった。 剛久:こんな時間に誰!? しまった!ジョックストラップがそのままだ…! ああもういいや、はいはい今行きまーす! Jet Black:おはよう、剛久さん!お荷物が届いていますのでサインください。 剛久:すみません、Blackさん!今忙しいんで、預かっててもらえます?サインは後からしますから! Jet Black:承りました。 …えっ!? 剛久:そういうことで!では! こうして剛久のいつも通りの平凡な一日が始まったのだった。 ■0-1 剛久:力が欲しいか…? 自分自身の力で何かを成し遂げられなかったとき、弱さや無力感を感じはしないか? 人生を変えたい、自分の違った面を受け入れたいとは思わないか? ムキムキマッスル・フィットネスクラブでは、幅広いレッスンだけでなく無料体験も行っております。 最強の肉体を作りたい?フィットネス界のトップに君臨したい?だったら今すぐ入会を! 剛久は彼のジムのインストラクター仲間たちと賑やかな通りでチラシ配りをしていた。 ???:おい、剛久! 剛久:痛てっ! ???:俺たちは生徒を集めてるんだ、お前の妙な筋肉信仰を押し付けるんじゃない!みんな怖がってるだろ! 剛久:いや、Jefferyくん、誤解だよ。 人間の遺伝子には最強の肉体への可能性とそれを追い求める欲求があるんだ。 決心と、忍耐と、自己鍛錬において人々は目覚め、きっと肉体の卓越を追い求めるようになるんだ、俺みたいにな! Jeffery:いやいやいや、男たち全員がお前みたいに脳筋なわけじゃないからね? じゃなくて、肉体の鍛錬の目的は「美」であるべきだ! カスタマイズされたトレーニングメニューとコントロールされた食事で、誰でも美しくバランスの取れた体が得られる。これがフィットネスのすべてだ。 Mikeroo:違う!トレーニングのすべては強くなるために決まってる! 俺は強くなるためなら何だってする!一番大事なことは誰でもブッ倒せるようになることだぜ! 剛久:お、Mikerooはいつも元気だな。 いや、それじゃテロリストが目標みたいじゃねぇか!? パディ:ハハハ、皆さん張り切ってくれていて嬉しいです。 柴彦はそうじゃないですが。彼はまだ来てないけど、もしかしたらまた寝坊かな? 通りすがりのファンA:あっ、パディさんだ!今日はツいてるぜ! 通りすがりのファンB:パ、パディさん!俺たちと写真撮ってもらえますか? パディ:えっと、いいですが…。 通りすがりのファンA:パディさんのレッスンって大人気ですよね!これ以上レッスンを増やしたりはしないんですか? 通りすがりのファンB:あなたのエアロビクスのレッスンを一度も取れたことがない友達がいるんで! パディ:うーん…えーっと…。 もし君たちがジムに本当に興味があるなら、他のレッスンも見てみてもいいと思うんですが…。 剛久:うわ、パディっていつも人気者だよな。 Jeffery:で、パディはいつも内気。いつも赤面しすぎ。 パディ:き、君たち!僕をからかうのはやめなさい!こっちに来てレッスンの紹介を手伝って! 剛久:ハハハ、わかってるって。俺たちは君からスポットライトを奪ったりなんかしないよ。 みんな〜!もしウェイトトレーニング体験に申し込んでくれたら、無料で緊縛体験もさせてあげるよ。Hunk区でナンバーワンの縄師の俺の緊縛だよ! 37代にわたって続く古からの技術、1000年の伝統がありつつも新鮮な体験。一度試したら病みつきだよ! もし今ここで縛られたい人がいたら、縄の準備はできてるよ、へへへ…。 Jeffery:ふん、それがどうした。 見て! Dngyeo市で最高のダンスコーチの俺が個人レッスンしてあげるよ!君の推しグループのダンスを習うチャンスだよ! あっ、今ここで振り付けをいくつか披露できるよ!さあ、見て! ???:そこをどけ! Jeffery:うわっ! 剛久:Jeffery!? ???:ここをうろつくのをやめろ、ブサイク!失せろ! 剛久:おい、お前一体何様だ!?人にぶつかっておいて、しかもJefferyに向かってブサイクだなんて! ???:はぁ? お前どっから来やがった?この俺様Thug Edのこと知らねえのかよ? いいか、このアホ広告屋が俺の邪魔をしたんだ、ぶちのめされて当然だろうが。何か文句あるか? Jeffery:あ、アホ広告屋? 剛久:…。 Mikeroo:おい、剛久、どうする? 剛久:ああ、どうやら俺たちのムキムキマッスル・フィットネスクラブはここでは見くびられてるらしい。 今どきの若いやつは礼儀がなってないな、きちんと教育してやらなくちゃ。 パディ:君たち…それはダメです! 僕たちはここに宣伝しに来たんだ。喧嘩になんかなったら…。 剛久:だからこそ、だ。俺たちのジムがどれだけ効果的か披露してやろうじゃないか! Mikeroo:ガハハ!その通りだぜ!のしてやろうじゃねえか! Thug Ed:何だと?やろうってのか? かかって来な!上等だぜ! ■0-3 Thug Ed:ひっ…ひぐっ…ぐすっ…。 剛久:生徒募集しながら準備運動ができるなんて思ってもみなかったぜ!ほんと爽快! Mikeroo:こいつマジで弱いな。こいつと戦っても何も楽しくねえぜ。ハァ…。 Jeffery:よぉ悪ガキ。悪いことしたらなんて言わなきゃならないか分かってるよな? Thug Ed:すみませんでした…もう二度としません…。 Jeffery:いい子だ。悪いと思ってるなら、俺のレッスンに申し込みな?まだ特別料金だからさ。 パディ:うーん、かわいそうに…。 ともかく、彼への「レッスン」は終わったみたいですね。離してあげましょう。 それと、生徒獲得を真剣にやらないと、今日の重要業績評価指標を達成できませんよ。 Thug Ed:ぐすっ…ありがとうございます…。 青髪のごろつき:Ed!一体どうしたんだ!? 金髪のごろつき:おい、俺めちゃくちゃ喉乾いてるんだけど、用事はもう済んだのか? Thug Ed:ハッハッハ!来たかお前ら! この負け犬どもにやられたんだ、やり返すの手伝ってくれ! 金髪のごろつき:何だって?俺の兄弟に手ぇ出したのかテメェ?はっきり言いやがれ! 剛久:何だ?こいつら増えやがったぞ。 Jeffery:髪以外でこいつらの見分けつかねえな…。 青髪のごろつき:クソが!いいか、違うのは髪だけじゃねぇぜ!俺のイカしたシャツを見な!俺のは一味違うぜ! 金髪のごろつき:デタラメ言ってんじゃねえ!お前のはコピー品だろうが、俺のはちゃんと本物だぜ! Thug Ed:おお、そうだ。お前のシャツはクソみてえなフェイク品だ。俺のこの上モノのファッション見て勉強しろ! 俺のこの花柄シャツとサンダルこそが本物のヤクザファッションだぜ! …クソッ、ごちゃごちゃ言わずやっちまえ! Mikeroo:ハハハ!上等だ!ウォーミングアップに丁度いいぜ、やっちまおう! ???:ごめんみんな、遅れちゃった。って、うわっ! Mikeroo:俺らのサンドバッグの柴彦のお出ましだ! パンチの練習には最高の日だな! 柴彦:ドッグフードに夢中になりすぎちゃって完全に時間を忘れちゃった!…ってちょっと待って!?サンドバッグって何!? Mikeroo:遅れたやつはサンドバッグにするってこの前約束したよな? 柴彦:そんなわけない!わふっ! ところで、その人たち、無料お試しレッスンの申し込みに来たの? 青髪のごろつき:「お試し」?試してみるか?あぁ!? 金髪のごろつき:ごちゃごちゃくっ喋ってんじゃねえぞ!おい! Thug Ed:このデブ犬をけしかけようってんじゃねえだろうな?俺らは「エリート4人組」なんだ!赤いオランウータン、黄金のライオン、青いオウムだ! 剛久:待って?3人しかいないみたいなんだけど…? Thug Ed:うるせぇ!俺らはまだ新しい仲間を探してる途中なんだよ!もうすぐ4人組になる! 青髪のごろつき:は?「3つの恐怖」の方がいいんじゃねぇか? Thug Ed:ともかく!お前らがそのデブ犬を呼んだところで俺たちは倒せねぇよ! 柴彦:グルルルル…。 Thug Ed:なんだこの音!? パディ:あっ…! 柴彦、良い子ですから怒らないで!おいしいドッグフードのことを考えて!冷静に! 柴彦:このデブ、そのデブって…。 ごろつきたち:え…!? 柴彦:君たち…ほんと失礼だね!? ごろつきたち:うわああああ!? パディ:うわぁ…柴彦!落ち着いてください!いい子だから…! そこから離れて、違うことを考えて! Jeffery:いや、いいぞ。俺たちはこのチンピラどもを懲らしめてやるんだ。 Thug Ed:く…クソッ!ただのデブ犬じゃねぇか!怖くねえぞ! お前ら!勝っちまえばこっちのもんだ。負けるんじゃねえ!いくぞ! ごろつきたち:うおおお! Mikeroo:ハハっ!やってみろよ! 剛久:おい、Mikeroo、興奮しすぎだ。俺たちは今日、生徒募集のために来たって忘れるなよ。 けど…これをさっさと終わらせて生徒募集に戻るにはその「ズル」をしなきゃな。 猛犬注意だ!行け、柴彦! 柴彦:アオーン! ■0-9 剛久:「君たち…ほんと失礼だね!?アオーン!」 「うわああああ!」 …こんな感じだったよ。さっきは本当にすごかったな。見られなかったなんてかわいそうに! 柴彦は普段は可愛らしくていいヤツなんだけど、怒ると狂犬モードに入っちまうんだ…。 そうなると俺たちの中で一番強いJefferyですら止められない! カフカ:Jefferyってそんなに強いのか? 剛久:驚くなよ?ダンスだけじゃなくて、ウェイトリフティングでもあいつはムキムキマッスル・フィットネスクラブで一番なんだ。 一番すごかったのは、60キロのダンベルを持ったまま叫びながらゴキブリを追いかけてたときかな。 あれはものすごかった。 …とにかく、Thug Edとその取り巻きが「レッスン」を思い知ったことを願うよ。 何と言っても、Hunk区は昼間はスポーツで、夜はパーティで眠らない街だからな。 厄介者のせいで旅行者が寄り付かないんだ。 でもMikerooみたいなタカ派は楽しんでるみたいだ。 喧嘩する理由があれば、あいつはいつも真っ先にやって来るからな。 おっと、ごめん!俺ばっかり喋っちゃって。退屈だったろ? カフカ:いや、全然。 面白かったよ。 剛久:ははっ、君は礼儀正しいだけじゃなくほんといいヤツだな! 今度は君の番だよ。君の昨日のロッククライミングについて教えてほしいな。 カフカ:ああ…えっと…。 空は広く、日の光は眩く、しかし暖かかった。筋肉が伸び、肌が張るのが感じられたよ。 山道はかなりわかりにくかったけど、そこから見える山の風景はなんとも言えないほど美しかった。 今度一緒に行かないかな?君もきっと気に入ると思う。 剛久:やった!もちろん!そのときはちゃんと予定を聞いてくれよ。 剛久:うん? カフカ:どうかしたか? 突然、静かな裏路地から、何かねばつくような、のたうつような音が聞こえてきた。 それは自分の存在を主張するかのようであり、音はまた闇の中に消えていった。 剛久:今の聞こえた? カフカ:何を? 剛久:なんていうか…誰かが地面でこんにゃくゼリーをいじってるみたいな…。 えっと、何でもないよ。はは。 Hunk区は何でもありの場所なんだ。誰かがほんとに裏路地でこんにゃくゼリーをいじってても、何も驚かないよ。 カフカ:それって化け物じゃないのか…? 剛久:そんなわけない、聞いたことないよそんなの! それから今日はラッキーな日だ、だからヘンなことや悪いことは起こりっこないよ! カフカ:ああ、いい日だな。 でも今日は新入会員が誰も捕まらなかった。それでもラッキーなのか? 剛久:おいおい、水を差すなよ!本当にラッキーだと思ってるのに! だって、大好きな人と食事に行って飲みに行けるなんて、重要業績評価指標なんかよりももっとずっと大事なことだろ? 君はそうは思わない、かな…? カフカ:そうだな、ごめん…。 俺も今日は君に会えて本当に嬉しいよ。 剛久:ははっ、楽しんでるのは俺だけじゃなくて良かったよ。 えっと…こんな気楽な毎日がずっと続けばいいな。 カフカ:俺もそう思うよ。 今日は昨日と同じ、そして明日も今日と同じ。 この平和で幸せな日々が変わってしまうことを望む人なんていないだろう。 しかし、それでもなお、誰も知らない場所で変化は起こっているのだった。 剛久:うわっ、ものすごく混んでる!今日は混雑の日か…。 昨日のパーティで出てきた名物をおすすめしようと思ったんだけど、こんなに混雑してたんじゃ注文できるかな…? カフカ:聞いてみよう。 ん、空が…? カフカの視線の先を見ると、どうしたわけか空が蠱惑的な色彩に染まっているのが見えた。 剛久:えっ?なんで空がピンクに? 今夜はピンク色の粒子が飛んでるのかな? カフカ:分からない…。 剛久:全部ピンクだ、夕焼けも。イカすね! 先月の泡パーティもすごかったけど、こんなのは今まで見たことないや。Hunk区はほんと最高のパーティ都市だよ! カフカ:見に行こうか? 剛久:うーん、まずは飲んでからかな。後で見に行くのはどう? カフカ:そうしよう。 ピンク色の夕焼けに包まれたHunk区は、また今日も賑やかな夜を迎え入れた。 しかし、レイヴ・ミュージックと騒がしい群衆の只中の、ひっそりとした暗い物陰で、ずるずると這い回るものと金属の軋りが、密かに混ざり合うのだった。 ■1-1 剛久:うん、どうかな? カフカ:んっ…! 剛久:次は少し強くするよ? カフカ:あっ…! 剛久:よし、できた! 剛久:Hunk区ナンバーワンの縄師の体験セッションに申し込んでくれてありがとう!へへへ…。 カフカ:ふぅ、ありがとう。 剛久:それでカフカ、この簡易で部分的な縛りだけで、もうこんなに興奮してるのか? カフカ:ち、違う!いつもはこんな風じゃないんだ…。 今日はなぜだか分からないけど…。 剛久:何杯か飲んだ後だとすごく素直になる人種もいるみたいだぜ?ふふ。 今日は携帯用ロープを持ってきて良かった。じゃなかったら、今の君の表情を見られなかったよ。 カフカを縛るロープを緩めると、柔らかい金属の紐が素早く剛久のブレスレットに収納された。 剛久:もし完全な緊縛セッションがお望みなら、次は俺のスタジオに寄ってくれよ。きっと価値ある時間になるよ。 事前に知らせてくれれば、空けておくから。 カフカ:じゃあ…今、とかはどうだ…? 剛久:ん?何て? カフカ:なんでもない。このことはまたの機会に話そう。 剛久:おいカフカ、顔、すごく赤くなってるよ。 ピンクに染まってて可愛いな…酔ってるのか? カフカ:君も同じくらい酔ってそうだが。 剛久:えっ?俺も? 剛久がよく見たところ、2人の頬は赤面してピンクになっているわけでないことに気付いた。ピンク色の月明かりが彼ら2人を染め上げていたのだった。 高く昇った月は、どうしたわけかいつの間にかピンク色の暈をまとっていた。 剛久:今夜の月は…ロマンチックな雰囲気だな。 どんなパーティをやったら月がピンクになんて染まるんだ…? 剛久:何の音だ? カフカ:上だ! コウモリのような影がピンクに染まった月の前に舞い降り、Hunk区を上から見下ろしていた。 カフカ:あれは…? ???:ふむ…。 ここは本当に格好の狩り場だな。 始めようか。 剛久:えっ…これってさっきの夕方に聞いた音かも?誰かがゼリーをめちゃくちゃに散らかしてるみたいな…。 ぬるぬる、ぐにょぐにょといった音がHunk区の通りにこだまする。その音は四方から集まってきて、近づいて来ており、どんどん大きく、また狂おしくなっていった。 その音は奇妙で、耳慣れないものだった。けれどもそれは神経に障るもので、通行人たちの興味を引いた。 反対方向に逃げるべきか、様子見のために留まるべきだろうか?そこにいた全員は頭の中で葛藤した。 カフカ:おい、足のそばだ! 剛久:うわっ!? ■1-2 剛久:うわっ!? …おい、これってすごく… すごく可愛い! ???:ずるっ? 剛久:ゼリーがどうやってここに? ゼリー:ごぼっ、べとっ。 カフカ:ゼリー工場から逃げ出して来たのか? 剛久:かもな。でも工場からここは遠いんだけど。 キミ、迷子なのかな? ゼリー:べとっ。 剛久:キミはすごくヌルヌル、ベトベトで、柔らかいね! 小さいモンスターみたいだ。でもなぜだかなんとなくセクシーで… カフカ:剛久、自分で何を言ってるか分かってるのか…? 剛久:…セクシーで、キュート!この子飼ってみよう! ゼリー:ごぼっ。 ???:ぐるる。 ぐるっ、べとっ。 剛久:え? ???:うぉるるるる。 剛久:何が起こってる!? ゼリーの大群が四方からなだれ込んできた。様々な大きさ、色のゼリーがごちゃまぜになって通りにいっぱいになる。 ゼリー:どばっ、ずるずる。 ゼリーの群れはぶよぶよの体を寄せ合いながら体を震わせている。彼らは無害そうに見えるが、とてつもない数が集まると相当な圧迫感だ。 剛久:待って!あまりにも多すぎる…! カフカ:おい、逃げるぞ! ゼリー:がぽっ! パニックになった通行人:うわああああ! 叫ぶ通行人:ベタベタしてる! 逃げる通行人:みんな、逃げろ!でないと動けなくなるぞ!わっ、うわああっ! ゼリー:ずりっ、ずるっ、べとっ。 剛久:うえっ! カフカ:ぼやぼやするな、早く! 剛久:はぁ、はぁ…。 やっと振り切れた…。 あのゼリーたちどっから来たんだ?怖すぎるだろ! カフカ:可愛いから飼いたいってさっき言ってなかったか? 剛久:カフカ、まだ俺をからかうの? ???:うぐ…。 剛久:追いついてきた!? クンクンと嗅ぎ回る音が追ってくる中、剛久は通りの暗がりで力なくぐったりと倒れている人を何人か見付けた。 剛久:大丈夫か!? 通行人:んんっ…。 剛久:この人たちに何が起こったんだ?酔った?それとも別の何かが? カフカ:いや、これを見ろ。 ゼリーのヌルヌルが付いているぞ。 おそらく、あいつらにやられたんじゃないか? 剛久:ああ、そうみたいだ。 うわっ、ベトベトしてる! 調べてみよう…彼らは怪我はしてないみたいだ。おい、立てるか? 通行人:うっ…無理だ…力が入らない、動けない…。 まるで…エネルギーが吸いつくされたみたいだ…。 剛久:うーん、ゼリーの粘液がこれをやったのかな? カフカ:そんなの聞いたことがないが…。 剛久:うーん、ピンクの空、ゼリーの群れ、力を失った人たち。一体何が起こってるんだ? 剛久:うわっ! 鋭い突風が吹き抜け、そしてすぐに闇夜に消え去った。 剛久:い、今何が起こった? 剛久:カフカ…? 返事はなかった。剛久はカフカのしっかりとした息遣いが、何の痕跡もなく消え去ってしまったことに気付いた。 剛久:カフカ?カフカ! 倒れている人々のうめき声を除けば、死のような静寂がその場を支配するのみだった。カフカの居場所の手がかりは何もない。 剛久:どうして…!? ■1-4 剛久:カフカ!カフカ! もう分かれ道まで探したのに。カフカはどこに行ったんだ? 彼が何も言わずに逃げるなんてあり得ない。まさかゼリーに捕まったのか…!? でも、例のごぼごぼべとべとした音は聞こえなかったのに。 ゼリー:ごぼごぼ。 べとべと。 剛久:お前らに出てこいって言ったわけじゃねえよ! おらっ! ゼリー:ずるっ。 剛久:ふぅ…。 このゼリーは一撃で吹っ飛ばせるけど、群れの全部がいっぺんに襲ってきたら、相当しんどいぞ。 それと…。 剛久の拳はゼリーの粘液に覆われていた。道端で倒れていた人に付いていたのと同じ粘液が。 剛久:この粘液ってヘンだけど馴染みのあるような感覚があるんだよな。 ヌルヌルした質感、くっついた後のヒリヒリした痺れ…。 あっ!麻酔効果がある潤滑剤だこれ! でも…ただ麻酔効果があるわけじゃない。これは…? 違う!俺はカフカを探してるんだった!これを解明するのはその後! 次はこっちを探してみよう…! 剛久:はぁ、はぁ…。 はぁ、はぁ…。 カフカ!カフカ…! 剛久:この音は…!? 剛久:羽虫みたいな音だ…今度は空飛ぶ怪物か? 剛久:え、うわっ!来るぞ! ゼリー:べとっ、ごぼっ、べとっ。 べちゃっ。 剛久:うわあ!どこもかしこもゼリーだらけだ!足元に気を付けないと…。 うえっ!ヌルヌルだ…! 剛久:わっ!うわわわわ! くそっ、真っ暗闇だ…! 俺…このまま死ぬのか…? 滑って転んで死ぬなんて…恥ずかしい!誰にも見られてませんように…! でもカフカ…カフカは…。 うう…。 ゼリー:べちゃっ、べとっ! 剛久が意識を失い地面に倒れ伏したとき、彼を囲んでいたゼリーたちが弾力のある体を震わせ、ゆっくりと近づいてきた。 ゼリー:べちゃっ、べとっ! ゼリーたちが剛久を飲み込もうとしたとき、緑色の輝きが彼の体からほとばしった。 緑色の光は剛久の体を覆うバリアとなり、近づこうとしていたゼリーたちを退けた。 ゼリー:ちゅうっ、べちゃっ、ずるっ。 ゼリーたちが散らされると、不思議な球体が静かに浮かんで近づいて来た。 ???:ターゲット、捕捉。未知のエネルギー信号の対照を開始。 対照結果、失敗。適合するエネルギーデータは見つかりません。 詳細データを得るには、覚醒プロトコルを…。 ■1-6 ???:…目覚めよ…。 剛久:な、何だって…? 虚空の中は既視感で満たされていた。馴染みのある声が剛久の耳に響いた。 以前とは異なり、この時は、闇の只中で緑色のエネルギーが彼の目の前で、まるで生きて呼吸しているかのように脈動していた。 ???:来た。早く目覚めよ…。 …世界を守れ、我が力で…。 剛久:待てよ!お前は一体誰なんだ?そんで俺は今どこにいる? ???:…我が力を上手く使え…。 この世界の敵に立ち向かえるのはお前だけだ…。立ち上がれ、戦え…。 剛久:おい、普通に話してくれよ!ちゃんと説明しろ! ???:行け、我が化身よ…! 剛久:おい、やめろ!まだ話の途中だ! 剛久が話し終える前に、緑色のエネルギーが彼の周りをロープのように取り囲み、闇が緑の光の洪水にかき消された。 剛久:痛てっ! ???:ターゲットが意識を取り戻しました。覚醒プロトコルを終了。 剛久:ん…?誰だ…?うるさいな…。 ???:ターゲットの反応により音量を10%下げます。こんにちは、私は訓練者調査ボット、コード:KUM-252405です。 剛久:は?何が起こってる? 剛久:なんで俺道路で寝てるんだ…?しかも頭痛ぇ…。 ???:道路に寝て、頭痛を訴えています。ターゲットの反応から、おそらく原因は二日酔い。 剛久:何だって?俺はそんなに酒に弱くない! うわあああ!でけえ羽虫ロボ! ???:ターゲットの反応から、視覚の貧弱さを検知。データを適切にアップデートします。 ターゲットの視覚の基準に調整するための発光機能を作動。 変身音のような音を鳴らして、その小さな機械は暗いシルエットを光らせ始めた。 ???:発光機能、作動。 私が見えているか確認してください。 再度挨拶させていただきます。私は訓練者調査ボット、コード:KUM-252405です。 Flybo:外界調査チームのガイドラインに従い、あなたは私を「Flybo」と呼んでも構いません。 剛久:…外界?訓練者調査?何言ってるんだ? これ、ドッキリ番組か何かか…? いや、待てよ?カフカ…!まだカフカが見つかってない! Flybo:現在の状況において、「ドッキリ番組」の定義に該当するものは検索結果にありませんでした。 冗談を言えるのは喜ばしい限りですが、私の分析では、あなたの使命はこの世界の命運に密接に関わっているようです。 剛久:何だって?冗談を言ってるのはお前だろ? とにかく、今の俺の目的は友達を見つけ出すことだから。じゃあな。 Flybo:ビーッ!ビーッ! 剛久:カフカ!カフカ…! Flybo:念のためお知らせ。あなたの現在の調査法は低効率です。 「カフカ」についての詳細を提供してください。Flyboはより効果的な調査法をご案内できます。 でなければ、「カフカ」の位置特定前に疲労してしまう確率、現在47%。 もしあなたがゼリーに飲み込まれてしまえば、Flyboは資格剥奪されてしまいます。 ゼリー:ずるっ、ごぼっ。 Flybo:大量のゼリーを検知。警告を続けます。 ゼリー:ずるっ。 剛久:おらぁ! ゼリー:ごぼっ! 剛久:こんなもん何でもない。あんなの蹴散らしてやる! Flybo:ターゲット人格に関してアップデート。自信家。 ゼリー:べちゃっ。 べとっ。 剛久:うっ!どこからどうやってこんなに集まってきた? くそっ、まずいな…。 Flybo:ターゲット人格データに追加、自信過剰。 敵の数、甚大。ターゲットは危機的状況。交戦開始。 戦闘チュートリアル作動。レッスン1「どうすればより楽に戦えるか?」。課程、開始します♪ ■1-9 Flybo:計算によると、あなたの戦闘効率は12.34%改善されました。 お望みなら、Flyboはあなたにパーソナライズされた戦闘訓練プログラムを生成できますよ。 パーソナライズされた訓練メニューを無料でお試ししませんか? 剛久:…。 Flybo:ビーッ!ビーッ!確認です。訓練の詳細な説明は必要ですか? 剛久:…何かがおかしい気がする。 Flybo:身体的な疾患は検知できません。原因の診断にはさらなるデータが必要です。 剛久:今、ゼリーを殴り飛ばしたとき、不思議な力が湧いてきたような…。 これって君のくれたヒントと何か関係あるのかな? 剛久は手を見つめながら、未知なるエネルギーが集まってくるのを感じて手を握りしめた。 このエネルギーは彼の夢に出てきたあの何者かを反映しているようだった。―漲り、力強く、そして不思議なほど馴染みのある暖かさがある。 Flybo:このエネルギーは先ほどの戦闘チュートリアルとは無関係です。 ログによれば、このエネルギーはあなたを通りで最初に発見したときからすでに存在していたようです。 このエネルギーはFlyboの正規データベースにも存在しません。 仮定しますが、もしもこのエネルギーによる防御がなければ、あなたはすでにゼリーの攻撃の犠牲者になっていたことでしょう。 剛久:えっ…? Flybo:事実、Flyboがあなたの位置を正確に追跡できたのはこのエネルギーのおかげです。 しかしあなたがこのエネルギーについて何も知らないようですので、さらなる情報をあなたから引き出すことはできません。 剛久:この力を「追跡」した?君は一体何を…。 剛久がその困惑について言い終える前に、曲がり角から素早い足音が響いた。 ???:におうぞ!誰かそこにいるね?アオーン! そこにいたんだ!大丈夫?わふっ。 剛久:あれは…柴彦の声だ! Jeffery:おお!剛久! どうしたんだ?怪我してるのか? 剛久:大丈夫だよ。少しふらついてるけど。 Mikeroo:お前がここにいるとはな。おっと、お前も通行人を助けてたのか? …見ろ!デカい羽虫の化け物が後ろにいるぞ! Flybo:…。 剛久:え?待って、これは…。 Mikeroo:羽虫めが、俺のライバルに触れてみろ!俺のカンガルー・クラッシャー・パンチを食らわせてやるぜ! Flybo:ビーーーーッ! 剛久:それはロボットだよ、虫じゃなくて…。 不意にMikerooの強烈なパンチを食らったFlyboは、きれいな弧を描いて空を飛ばされていった。 ■1-11 Flybo:非難します!猛烈な攻撃性を検知。外界へと報告し、このエリアの危険レベルを上昇させます。 自己修復モードを即座に作動させます。 Mikeroo:すまん…俺はお前が化け物だと思ったからつい興奮しちまって…。 柴彦:なんで化け物に興奮する理由があるの?焦っちゃダメだよ。 でもボクもパンチしちゃった…ごめんね。わふっ。 Mikeroo:Hunk区には普通こんなデカい虫はいないからな。俺たちは気を張りすぎてたな。 Flybo:強調して否定します。私は虫ではなく、訓練者調査ボット、コード:KUM-252405です。 言語モジュール、失敗。感情交換、失敗。 WOOFIA言語および文化プロトコルを開始します。 …クソッ!ムカつくぜ!俺が修理工場送りになったらテメーら野蛮人のせいだかんな!剛久、Mikeroo、柴彦、Jeffery、パディ…テメーらに請求書送り付けてやるから覚悟しとけよ! 柴彦:ボクらみたいな喋り方になったね。でもまだよくわかんないや、わふっ。 剛久:オーケー、落ち着いて。君はまだエネルギー満タンだろ? とにかく、さっき言ったように、カフカと俺は最初は一緒だったんだ。 俺たちは道に倒れた人たちを助け起こそうとしていた。でも俺が振り返るとカフカはいなくなっていた。 柴彦:カフカはいつも静かだけど、何の音も立てずに消えちゃうのは彼にしたってヘンだね。 倒れた人に関してだけど、まさにここに一人いるよ、わふっ。 剛久:そうだな。ってパディはどこだ?お前たちと一緒じゃなかったのか…? パディ:うっ…。 僕は…ここだ…。 パディの声が後ろから聞こえてきた。柴彦が横へどくと、ふらつくパディに肩を貸すJefferyが現れた。 剛久:ぱ、パディ!?どうしたんだ!? ゼリーにやられたのか!? パディ:いや…ゼリーじゃなくて…。 さっき、通りを逃げる人たちを助けていたときでした。 翼がある獣人が空から舞い降りてきて、巨大な鎖で僕を包んだんだ…僕を連れて行こうとして…。 幸いにもMikerooたちが間に合って抵抗してくれたから、そいつは僕を捨てていったんですよ。 Mikeroo:ふん、やつがあんなに速く飛べなかったら、あいつが空高く飛んでいかなくても俺が空にブッ飛ばしてやったんだがな。 パディ:例の鎖に捕まったとき、僕の血が突然沸き立ったんです。そして一瞬ですべてが抜き取られてしまうみたいな…。 その瞬間、僕の精神は明瞭でした。そして思ったんです…人生の意味について真剣に考えたのっていつ以来だろう?って。 なぜ僕らは存在している?もし僕らの誕生が自分でどうしようもないものだったら、僕らが求めているものって真の意味で僕らが自分から求めたものなんだろうか…? 剛久:…。 …は? パディ:おそらく、選択の自由がない哀しみ以外のことは、全部無意味なんですよ。僕らの存在それ自体だって…。 剛久:パディどうしちゃったんだ…。 Jeffery:襲われてからずっと、パディはこんな感じのままなんだ。 剛久:パディは哲学に目覚めちまったのか…? Jeffery:俺にはむしろ賢者タイムに見えるけどね。 パディ:何でしょう? 剛久:えっ? Jeffery:剛久、なんでパディの胸筋掴んでるんだ?パディが弱ってるのにつけこんで? 剛久:うわあっ!なんで俺の手が勝手にパディを!? しかも…手が戻せない…! パディ:んっ…この感触は…。 剛久、君の手ですか?光ってる! 先ほど剛久がゼリーに対抗するために使った力と同じものが、彼の手のひらから緑色の光として流れ出し、徐々にパディの体に染み込んでいった。 パディ:あっ…うぅ…。 剛久:うわっ!どうしてこうなった? しかも止まらない!? パディ:待って! 変だ…。 僕の中の欠乏が、戻ってくるみたいに満たされていく…。奇妙な感覚だけど、悪くない…。 剛久:何が起こってるんだ…? じゃあ試してみよう、もしもっと強く押したら…? 剛久が意識して筋肉を収縮させると、緑色の光はより暖かく、より明るくなっていった。 剛久:むむむ、はああああっ! パディ:はぁ…うっ…。熱くて燃えるような何かが来てみたいです…変だ…。 ああっ、んんっ、ああああっ! み、満たされていく…! 剛久:んっ…力抜けよ?全部注ぎ込んでやるからな…! パディ:あっ、あああああっ!熱い、あったかい…! 全身が火照ってるみたいで…んあああああっ! 柴彦:これ、誤解されそうな会話だね、わふっ。 で、良くなった?パディ。 パディ:ああ、まだ有酸素運動は無理だけど、だいぶ良くなってきましたよ。 あの吸い取られたみたいな、空虚になったみたいな気分は…どうにか少しずつ消えていっている、かな…? Flybo:スキャン結果。パディの生命エネルギーは、24.45%から、剛久の治療により95.63%に上昇。 データベースには適合事例なし。このエネルギーを「回復」とタグ付け。 訓練調査ボットとしちゃ、こんなことは初めてだぜ。 剛久:うーん…俺に何が起こったのかまだ分からないや。 ただ、俺が押せば、手から熱くて緑色のエネルギーが出はじめるってことは分かったよ。 それと、これはパディを回復させたみたいにだけじゃなくて、近くのゼリーを感知もできるみたいだ。 ちょうど今、感じ取れたみたいにな。 って、あれ…? Flybo:未知の巨大エネルギーを感知。強敵が来やがったみてぇだ。準備しろよ。 ???:ずるっ、どすっ、どすっ、どすっ…。 剛久:うわ…。 ???:どすん、どすん、どすん…。 剛久:こんな巨大なゼリー、見たことないぞ!? 邪悪ゼリー(L):べたっ、べたっ、べたっ! ■1-14 ゼリー(XL):ぷしゅー! 剛久:やあっ! ゼリー(XL):ぐふ。べたっ、べたっ。 剛久:ふぅ…。 これで終わりか。 Mikeroo:くっ…お前いつの間にこんなに強くなったんだ? Jeffery:もし剛久がここにいなかったら、こんな大きなゼリーの化け物と戦うのはもっと大変だったろうな。 Flybo:おめでとう!戦闘効率が11.32%改善。 スキャン結果。お前にはかなりの戦闘の才能があるみたいだな! 剛久:マジ? へへっ、俺ってすごいのか? 剛久の拳を取り巻く緑色のエネルギーは前よりも強くなっているようだ。 とりわけ巨大ゼリーの襲来に際しては、剛久の反撃は明確に他から抜きん出ていた。 剛久:ところで、君はずっと「スキャン」だの「検知」だの言ってるけど、それって実際どういうことなんだ? Flybo:そんなに聞かれちゃあな! まるで剛久か他の誰かに聞かれるのをずっと待っていたかのように、Flyboは嬉しそうにハイテク飛行音を鳴らした。 Flybo:外界の最高水準技術について教えてやろう、異常エネルギー検知システムについてな。 WOOFIAに着いてからずっと、俺はこのシステムに頼って剛久を追跡してたんだぜ。 計算によれば73.53%の確率で、例のエネルギーはこの混乱で役に立つことが検証された。 剛久:…どういうこと? Flybo:単純に言えば、この世界はあらゆる形態のエネルギーに満たされている。 熱や電気の他にも、感情や性欲さえもエネルギーの一種なんだ。 通常は、時空の中でエネルギーは調和を保ち安定している。 あるエリアでエネルギーが暴れだしたら、俺のエネルギー検知システムが即座にそれに反応し、速やかにそれを操作可能にする。 剛久:ってことはこの力は…悪いものなのか? Flybo:異常なものがいつも悪いものだとは限らない。 剛久、お前は、俺がここの異常を追跡していたときに見付けた、思いもかけない大当たりだ。 剛久:えっと、ありがとう? Flybo:お前が言っていた「近くにいるゼリーの感知」は、お前の能力が色んな場面で役に立つだろうことを予想させるな。 剛久:うわ…じゃあこの力ってすげえのか? 急に強くなったみたいだ!巨大ゼリーが一度に10体来たって倒せそうだ! 柴彦:かっこいい! 実はスーパーパワーだったってこと?わふっ。 パディ:つまり僕が力を吸い取られたのを癒やしただけじゃないってことですね。ゼリーに対しても有効というわけで。 Mikeroo、剛久はもっと強くなったみたいですよ? Mikeroo:クソッ…少し休んでる間にライバルに先を越されちまったってことか? カンガルー達人拳の修行を増やさないとだな…。 剛久:誰がお前のライバルだって!?お前はただ喧嘩したいだけだろ! とにかく、喧嘩は後回しだ。カフカを探すのが優先だ。 カフカ、どこに行っちまったんだ…? Flybo:カフカの居場所を探るために例の緑色のエネルギーを使ったらどうだ?ゼリーに使ったみたいに。 剛久:えっ、そんなことできるの!? Flybo:保証はねぇが、計算によれば14.63%の確率で成功するって出てるぜ。 剛久:え…ちょっと待って、どういう理屈なんだよ? Flybo:お前のエネルギーの偶発的な使用、ゼリー感知にしろ、他者の苦痛の軽減にしろ…。 この力はお前の要求に積極的に応えてくれるみてぇだ。 まあ、力を使う以外に他に選択肢はないしな。 剛久:うーん、たしかに…。 よし、やってみよう。 うーん…。 剛久が落ち着いて集中すると、仲間たちは手助けできないながらも、剛久と同じように息を呑んでいた。 剛久:カフカ…。 剛久は集中してカフカをイメージした。いつも人を寄せ付けないような彼の表情、彼の登山用具に着いたロープの跡…。 そして先ほどバーの外で縛られたときの、カフカの紅潮した顔…。 剛久:んっ…ううっ…! 剛久:こっち…か? うわっ、ちょっと待った!何か感じる!? 俺って天才じゃない? Flybo:おい、調子に乗るの早すぎだろ! ただのゼリーの群れかもしれないぞ! 剛久:いや、俺のカンがそうだって言ってるんだ!カフカだ、間違いない! こっちだ。行こう! Flybo:待て! ビーッ…あまりにも上手くいきすぎじゃないか? 過去のデータからするとこういうときは高確率で危険な目に遭うもんだ! 剛久:うわわっ…! すごい力で引っ張られる! これって俺とカフカの絆なのかな〜? Flybo:みんな、待て! 俺のシステムが前方に強烈なエネルギー上昇を検知した。 気を付けろ、焦るなよ! 柴彦:この先で誰か戦ってるのかな?すごい音がしてる! カフカも戦ってるの?早く助けに行こう、わふっ! Jeffery:でも…戦いじゃないみたいだけど…。 もっとこう…衝突事故みたいな…? 一同は急いで角を曲がると、見慣れた姿がピンク色の夜空の下にいるのに気付いた。 しかしいつもの穏やかな物腰とは異なり、その人物の振る舞いは荒々しく落ち着かないものだった。 彼の周りでは、賑やかで華やかだった通りが廃墟と化し、瓦礫が散らばっている。 破壊者の圧倒的な、鬱積された力によって、機械やパイプは破壊されて爆発音を響かせる。 剛久:あ、あれは…。 ■1-17 ???:ぐっ…うおおおおおおっ!! ピンク色の月光がその姿を照らす。体全体を鎖が縛り上げているその姿を。その鎖は、何かに憑かれでもしたかのように荒々しくのたうっている。 鎖は彼を縛るだけでなかった。それは武器でもあり、踊り狂うかのように彼の逞しい腕に振るわれている。 この区域はすでに瓦礫でめちゃくちゃになっているのに、かの破壊者はあらゆるものを打ち据えている。あたかも行き場を失った無限の力を発散しようとするかのように。 剛久:あ、あれは…。 カフカ!? 見慣れない姿となったカフカは、拳の一撃だけで近くの街灯を倒した。一同は皆一様に息を呑んだ。 Jeffery:カフカってあんなバカ力だったっけ? 今まで隠してたのか? Flybo:観察によればこれはカフカの力じゃねえ、あいつを縛ってる鎖の力だ。 あの鎖には強力なピンク色のエネルギーが脈動してる。 スキャン結果によれば高確率であれがカフカを狂わせてるみたいだ。 カフカ:がああああっ! Flyboがその解析結果を伝え終える前に、カフカは腕を振るい、一同の右側に鎖を打ち付けた。 剛久:危ない! 鎖の衝撃で道路にクレーターができた。カフカは瓦礫と塵をかき分けながら前進する。 剛久:あんな鎖が当たったら、運が良くても瀕死だ…! カフカ!どうしたんだ、俺たちだよ! カフカ:…。 Mikeroo:ふぅ、相当なパワーだ。やっと今日初めて本気で戦えそうだぜ。 この最高のパンチを食らわせてやりゃ、泣き叫ばないまでも目が覚めるだろうよ。 剛久:や、やめろ!相手はカフカだぞ!?俺たちの仲間なのに痛めつけるっていうのか? パディ:気を付けて!おしゃべりよりも避けることに集中しましょう! Jeffery:ひいいいっ! 剛久:jeffery! Jeffery:ひいいいっ! ひいやああああああ! …あれ?俺無事だ? 稲妻のように速い鎖の一撃が仲間に迫ったが、そのときとっさに剛久の腕が伸びた。 気付けば、剛久はブレスレットからロープを射出して鎖を絡め取っていた。ロープはまるで自らの意志を持っているようだった。 剛久:無事かjeffery?よかった…。 でも…これはどういうことだ!? 剛久の手のロープは緑色のエネルギーによって発光し、カフカのピンク色の鎖に絡みついて、ギリギリで彼の攻撃を止めていた。 カフカ:ぐるるるる… ロープをしっかりと握っていると、剛久は重い鎖でも押し返せそうな強い力が湧き上がってくるのを感じた。 一方でカフカは、無表情ではあったが、鎖を引っ張って自由にしようとしていた。 剛久はこの力のことをまだ理解していなかったが、次の攻撃を止めるにはカフカの引きに対して全力で抵抗しなければならないことを勘で理解していた。 剛久:うう…カフカの力は尋常じゃない!くっ…。 ロープと鎖は双方ともに今のところ持ちこたえてはいるものの、剛久は全力でもってかろうじて耐えているという状態だった。 この拮抗状態が破られれば、彼はものの数秒でやられてしまうだろう。 Flybo:ピーッ!よくやった! 剛久:いや…俺は何もしてない。ロープがひとりでに飛び出して鎖に絡みついたんだ! 俺はカフカの方に引っ張られないようにしているだけだ…逃げ出したくても逃げられない! Flybo:いや、それが既にすげえ助けになってるぜ! 剛久がカフカを抑え込んでる隙に、他のみんなは集まれ! Jeffery:よし、みんなで飛びかかれば…。 って、あいつのバカ力見てた?あいつは俺らが束になってかかってもどうにかできるもんじゃねえって! Flybo:心配すんな。Flyboがいるぞ。 さっきも言ったように、あの変な鎖がカフカを狂わせてるんだ。 俺があの鎖の弱点を見つけてそこを攻撃すれば、あの鎖を壊せるはずだ。 あのピンク色のエネルギーがパワーを注ぎ込んでるんだから、そうすればカフカは大人しくなるはずだ。 jeffery:でもどうやって? はぁ…一日中戦ってたから、この後は本気で休まないとな。 でも今こそが、ムキムキマッスル・フィットネスクラブのウェイトリフティング記録保持者が本気を見せつけるときだな。 カフカ、覚悟しろよ! パディ:どうせ、もっといい作戦なんかないんでしょう? だったら、ためらってないで、剛久がくれたチャンスを最大限に活用すべきです。 剛久、持ちこたえて! 剛久:ああ!全然問題ないぜ! 俺は全力でカフカを釘付けにしてればいいんだよな? カフカ:ぐっ…。 剛久:Hunk区最高のウェイトリフティングコーチの誇りにかけて、みんなのために全力を尽くすぜ! 柴彦:わかったよ!わふっ。 Mikeroo:言葉が通じないなら、拳で語るだけだぜ! 柴彦:喧嘩大好きカンガルーさん、よだれ拭きなよ、わふっ。 Flybo:よし、やろう。鎖をぶっ壊すんだ! ■1-19 縛られたカフカ:うっ…。 先ほどの荒々しい衝動が去ったが、カフカの目はぼんやりとしてうつろで、皆が彼を心配している。 剛久:カフカ? カフカは一同に対して顔を上げようともがいた。彼のいかめしい顔は混乱に曇っていた。 剛久:何があったか覚えてるか? 縛られたカフカ:ここは…?俺は…?一体…? 何も思い出せないし…もうどうでもいい…。 Jeffery:うーん、さっきのパディみたい? でもカフカはもっとひどそうだ。 剛久:ダメだ、どうでもよくなんかない! 登山に連れて行ってくれるって、俺のスタジオに来て縛らせてくれるって約束しただろ! 大好きなロッククライミング、そのスリル、達成感…全部忘れちまったのかよ! 縛られたカフカ:思い…出せない…。 剛久:クソッ!思い出してくれ! 本気で縛らせてくれるって約束したじゃないか!諦めるな! Flybo:カフカを見つけるためにあんなに頑張ってたのはこういうわけか。 この世界の仕組みについて理解するにはもっと時間が必要みたいだぜ。 パディ:さっき僕を癒やしたみたいに力を使ってみるべきでは? カフカはもっとひどいから、そんなの簡単にはいかないと思いますけれど…。 Flybo:俺はパディの提案に賛成だぜ! 剛久、緑色のエネルギーがお前のロープを包み込んだとき、力がもっと強くなってるを感じたんだ。 もしカフカがこうなったのが例のピンクの鎖のせいだとしたら…。 緑色のパワーを帯びたロープを使えばカフカを元に戻せるかもしれないぜ! 剛久:俺の…ロープが? 剛久は手の中のロープを見つめると、そこに力を込めた。 今まで静まり返っていたロープが、彼の呼び掛けに応えるように、再度エネルギーで脈打ち始めた。 カフカを癒やしたいという剛久の願いに答えるかのように、緑色の光はどんどん輝きを増していった。 縛られたカフカ:おお…これは…。 その刹那、ロープの緑色のエネルギーはカフカの中で弾けたように見えた。するとカフカの目に生命の灯火が灯った。 縛られたカフカ:これはまるで…恋みたいだ。 はぁ…はぁ…もしこのロープが俺を縛ってくれたら…。 あの感覚を思い出せるかもしれない…。 剛久:…。 それだけか? その後したいこともあるだろ? 今がそのときだろ、カフカ!俺と一緒に帰ろう! 最初から計画してただろ?着いたらすぐ始めるぞ、エネルギーでいっぱいになるまで縛ってやるからな! 柴彦:わふ? Flybo:皮肉用モジュールをできるだけ早くインストールしないとだぜ。こいつら何言ってるのか全然わからねえ。 Mikeroo:何だって? パディ:まったく剛久らしいですね。ははは…。 Jeffery:あれ?俺何か見逃した? なんでこうなったんだ!? 剛久:俺はHunk区で最高の縄師だ。 だから友達を縄で救うのも当然のことだろ? まかせろ、俺がみんなのためにカフカの元気と活力を取り戻してやる! ■Healing Rope of Lust カフカ:はぁっ…あっ…。 剛久:ふぅ、もう感じてるのか、カフカ? カフカ:この…ぞくぞくする感覚、とても懐かしい…。 剛久:きつくするからな? カフカ:あっ…んっ…。 剛久:カフカ、楽しい思い出を思い出してみろよ。 俺はここにいるぜ。 カフカ:んっ…。 剛久:よし、目を開けろ。 カフカ:うっ…。 カフカが目を開けると、彼は自分がロープで吊るされていることに気付いた。裸の剛久が目の前にいる。 ロープはカフカの体を適切な仕方で縛っていて、カフカは吊るされた浮遊感に対してどうすることもできなかった。 空中において、カフカを繋ぎ止めるものは剛久の腰と一物だけだ。一物はカフカのものと絶え間なく擦り合わされている。 剛久:もしすぐ思い出せたら、こんな風に縛られてるのを楽しめるはずだぜ? 剛久は半勃起状態のカフカのものを、自分のもので弄び、手ではカフカの肌にくまなく食い込み苛むロープをなぞっている。 カフカ:うっ…。 縛られた体では、すべての感覚が敏感だ。 剛久の硬い手のひらは長年のウェイトリフティングのせいで荒れてざらざらだったので、愛撫の刺激は百万倍にもなった。その快感がカフカの脳に直に叩き込まれる。 カフカの精神は性欲を失ったことで混乱していたが、今や剛久の絶え間ない責めに晒されているのだった。 剛久:まだ足りないか? 安心しな。ゆっくり、じっくりやっていこうな。 剛久がそっとロープをたぐると、カフカの筋肉を縛る張力はよりきつくなる。彼の日焼けした肌に、縄跡が刻まれていく。 カフカ:あっ…あっ…! きつい縄がもたらす痺れるような刺激が、カフカの緊張した筋肉を通して増大すると、カフカは本能的な喘ぎを漏らした。 剛久は右手でロープをなぞり、カフカの固く色の濃い乳首を弄ぶ。あるときはやさしく捏ね回し、あるときはつねり、引っ張る。 カフカの発達した大胸筋は、霞がかった脳よりも早く反応した。容赦ない刺激で鳥肌が立つ。 カフカの反応に気付くと、剛久はカフカの大きな大胸筋と乳首への責めを強めていく。 カフカの目はいまだ生気を失ったままだが、彼の顔は紅潮し、口は開き荒い息が漏れる。 剛久:こういう感覚が恋しかったんじゃないか?カフカ。 ここまできつく縛り上げられたら、その筋肉でどんなに抵抗しても1センチも動けないぞ。 目の前の無骨な男の、無表情と覚醒が入り混じった表情を見ていると、剛久の物は膨らみ、硬さを増していった。 剛久:他の誰かとじゃ、俺はどうしたらいいかわからないんだ。でもカフカ、君を気持ちよくさせるにどうしたらいいかは完璧に分かってる。 ああ…我慢できない…速めてもいいか? カフカ:ううっ…君は何を言ってるんだ…? 剛久:いいから、いいから!俺の奉仕を楽しんで!へへへ…もっとゾクゾクさせてやるからな。 剛久は右手でカフカの胸筋を捏ね回しながら、左手ではカフカの焼けるように熱い、先走りに塗れたものを責めた。 カフカ:ぐあっ!痛っ…! 剛久はわざとロープを引いたわけではいが、それでも彼の動きは荒々しかったので、あらゆる責めの際にきつく縛ったロープが引っ張られてカフカの肌に食い込むのだった。 刺激はどんどん強まっていき、ついにはカフカの半勃起は完全に硬くなった。 カフカの体は細かく震えていたが、物を擦り上げられているせいで彼自身はそれに気付いていない。 まるで肉体の方が先に目覚めているかのように、肉体は剛久の提供する快感を貪る。 カフカ:んっ…!これは…この妙な感覚は…? ぐっ…欲しい…!もっと、もっと強く!ああっ…! 剛久:へへへ…もちろんだ。お望み通りにな…。 カフカの快楽を求める淫らな懇願に、剛久は嗜虐性を焚き付けられた。彼は握力をさらに強めていく。 カフカの体は火照り、筋肉はわななきロープを張り詰めさせた。甘やかな痛みが、鮮烈な波をなして駆け巡る。 カフカ:ああっ…!いいっ!イくっ…!あああああっ! 剛久の容赦ない猛烈な責めによって、カフカの全身は張り詰め、怒張した物から白い精液が爆ぜ出る。 カフカの日焼けした逞しい胸筋と腹筋は、白い飛沫によって彩られた。 カフカを縛るロープがかすかに緑色に光ると、それと同じ色の光が彼のうつろな瞳に灯った。 カフカの眼差しがしっかりしたものに戻っていくと、ロープの光は消えた。 カフカ:えっ…?俺は一体…!? 立ち直ったカフカは困惑した。 見慣れない場所で縛られ吊るされていて、自分も剛久も裸だ。2人の硬くなった物は押し付け合わされている。 カフカ:剛久!?な、何が起こってる!? 剛久はカフカを見つめた。一回戦を終えたにも関わらずまだ硬くなっているし、驚きと恥ずかしさの興奮が入り混じったその表情…。そして剛久はまだ自分の役目が終わっていないことに気付いた。 剛久:説明は後だ。ところで、まだこんなに硬いままだけど、ここで終わってもいいのかよ? 剛久は自分とカフカの物を少しだけ引き離した。すると、2人の熱気の間に突然の間隙が挟まる格好になった。 カフカ:つ、続けてくれ…。 剛久:ん?やめちまうぞ? カフカ:…。 剛久:やめてもいいのかよ? カフカ:…。 いやだ、続けてくれ…。 頼む…! 剛久:へへへ…。もちろん、してやるよ。 剛久はカフカの全身をまた愛撫し始めた。 絶頂を迎えたばかりだったが、剛久の荒々しい手付きとロープの食い込みによる刺激は、カフカの敏感な体に衝撃を走らせた。 カフカ:ああっ!ダメだ、いっ、痛っ…! 剛久:大丈夫だ、ゆっくりやっていくからな。 カフカ:んっ、はぁ、はぁ、はぁっ…。 剛久はカフカの体を眺めつつも、彼の微細な変化を見逃さなかった。痛みが和らぐと、生々しい欲望がカフカの表情を染め上げていく。 カフカの口は物欲しげに開き、まるで自分を満たしてくれる別の暖かさを請うかのように喘いでいた。 剛久は身を倒して、濡れた舌によるキスで、カフカの飢え渇いた唇を荒々しく塞いだ。 カフカ:んっ、んぐっ…。 剛久が身を倒したことで、2人の竿はより激しく擦り合わされる結果となった。 先ほどのカフカの精液で2人の物は絡み合い、先走りも一体となって混じり合う。 剛久がその体重でカフカの体ももう数センチ押し下げたせいで、カフカの拘束された筋肉にさらにロープが食い込み、鋭い叫びがカフカから漏れ出た。 カフカ:あっ!ああああっ!んんぅっ! カフカの苦痛の叫びは、剛久のキスによって塞がれた。 そのせいで、筋肉の拘束とロープによる刺激は、さらに大きなものとなった。 苦痛と快楽はぶつかり合い、いつ爆発してもおかしくない状態だ。 カフカ:ああっ…ダメだ、もう…! 剛久:我慢するなよ、カフカ。欲しい。俺にくれ! ロープの締め付け、カフカの胸や尻をまさぐる手、擦り合わされる2人の物、それらが積み重なったのもあって、剛久の促しはまるで媚薬だった。 カフカはもう一度、絶頂を解き放った。 カフカ:ダメだ!もう!おおおおおっ!! 剛久:俺もイくっ!ああああああっ! 2人の精液は胸筋と腹筋の間で爆ぜ、ものすごい勢いであちこちに飛び散った。濃い種汁と熱い汗が、混じり合って降り注いだ。 剛久:はぁ、はぁ…こんな風に2回もイくなんて…。 めちゃくちゃエロいよ、カフカ。 カフカ:…。 続けざまの絶頂は、一流のクライマーであるカフカさえもすっかり疲労困憊させてしまった。 剛久:あっ…ちょっとやりすぎちまったかな…? ふぅ、とりあえずカフカが元気を取り戻せるといいんだけど。 2人の深い喘ぎの只中で、カフカにこびりついていたピンク色の呪いはついに消え去ったのだった。 ■1-21 カフカ:…。 ん…? 柴彦:目が覚めたんだね!わふっ。 Mikeroo:起きるのはゆっくりでいいぞ。 剛久:おはよう、カフカ! カフカ:んっ…。 俺は…ずっと眠ってたのか? 剛久:ああ、よく眠れたかな? カフカ:ん…長い長い夢を見てたみたいだ。 剛久:ってことは、何があったか思い出した? カフカ:うーん…。 剛久の後ろを歩いているとき、妙な鎖が横から飛んできて俺をきつく縛り上げたんだ。 抵抗しようとしたが、頭が真っ白になった。 その後、俺は剛久から遠くに引き離された。 鎖に締め付けられて、俺は…俺は…。 柴彦:その後何があったの?わふっ。 カフカ:俺は…。 俺はここに来た。 柴彦:うん? カフカの頬に徐々に赤みがさしていき、彼のいかつい顔を愛らしいものに変えていった。 剛久:心配ないよ、わかってる。縄で縛るみたいに、色んなことがキツくてギチギチだったんだろ? カフカ:と、とにかく、その後、急に力を吸い尽くされたんだ。 まるで…全部の肉欲が絶頂とともに吸い尽くされたみたいに、後には何も残らなかった。 柴彦:に、肉欲? カフカは頷いた。 パディ:じゃあ、Mikerooに救い出されなかったら僕もカフカみたいに…? よかったです…。僕がみんなの前でそんなことになってたと思うと…ああ!恥ずかしい!! Flybo:つまり、例の鎖は人々から性欲を吸い取るってことか? 興味深いな。データベースに登録しておこう。 剛久:でも、なんで緊縛とかロッククライミングとか、好きなものまで忘れちゃったんだ? 皆がカフカの方を見ると、彼の顔はさらに赤くなっていた。 カフカ:つ、つまりそれは…俺がクライミングをしてるとき、「それ」が本当に好きだから…。 ロープに拘束されて、空中に吊り下がる、のが…。 カフカは声を落としてモゴモゴと言っていたが、皆はそれをはっきりと聞き取った。 カフカ:だから…それがおそらくその理由だ…。 カフカは縮こまった。 柴彦:え?それってどういうこと?わふっ。 Flybo:つまり、カフカのロッククライミング愛は性欲と繋がってたってことだな。 だから例の鎖が「エネルギー」を吸い取ると、それと繋がってた記憶や情熱まで失っちまうってことだ。 ビーッ、どうやら鎖の影響は予想以上に深いみたいだ。 カフカ:その後のことは全部曖昧だ。 頭が真っ白になって、物を壊せ、人に攻撃しろ、という誰かの声が聞こえるだけだったことしか覚えていない。 剛久が…スタジオに連れて行って俺を縛ってくれるまでは…。 彼のロープは魔法のようだった。縛られている間、ロープが空虚を埋めてくれるみたいだった。 そして俺は…。 剛久:2回イったんだよな? 剛久は指を2本立てながらニヤニヤした。 Flybo:データ登録。 カフカ:やめろ、そんなのは記録しなくていい! Mikeroo:で、今はどうなんだ? カフカ:かなり良いよ。今すぐクライミングに行きたいくらいだ。 柴彦:よかった、わふっ!ボクらの知ってるカフカが戻ってきた! Flybo:めでたい、めでたい! 突然、見えない力が剛久の感覚を引き寄せた。後ろから忍び寄る敵意ある存在を警告するために。 剛久:誰だ! ???:どういうことだ?まさか誰かが鎖の呪縛を解いたなんて…。 どうやら、戦士たちを縛り上げる計画はもはや上手くいかないようだな。 邪魔立ては鬱陶しいが、面白い誤算だ。 コウモリ獣人が一同の頭上に羽ばたきの音も立てず浮遊していた。冷たく暗い眼で、彼らを見下ろしながら。 Mikeroo:こいつ…いつからそこにいやがった!? 全然気付かなかったぜ! ???:何にせよ、Kに報告し、次にどうなるか見届けるとしようか。 パディ:彼です!僕に後ろから襲いかかってきた獣人は! 剛久:何だって?あいつが!? ???:聞け、呪縛を解き放てたのはただの悪運にすぎない。 自惚れるなよ、虫けらどもが。 Hunk区は始まりにすぎない。 お前らは何一つ変えることなんてできないんだ。 そう言うと、コウモリ獣人は翼を羽ばたかせて目にも留まらぬスピードで飛び去った。 剛久:あの野郎、一体何者だ!? Flybo:検知システムなしでも、あいつが悪人だってことは分かるぜ。 剛久:にしてもあいつの飛び方、目の前で見てもあんなことができるなんて信じられないな。 Flybo:信じるしかないがな。 柴彦:何か大変なことが起こりそう…わふっ。 一同は黙りこくったが、街の至る所から喧騒が聞こえ始めた。 煙と銃声こそまだないものの、一同は、今までの平和で静かな日々が残り少ないことを確信したのだった。