その世界においては、実にありふれた風景の一部に過ぎなかった。 ことに若い女が、その雌性を食い物にされるなどというのは。 足のつかない異世界から、自分に絶対服従の下僕を呼び出すことができるのだ。 得てしてその姿は、術者たちとはかけ離れている――なにより、心が痛まないのが、いい。 労働力として使い潰されるだけなら、その召喚獣は幸福な末路を辿ったと言えよう。 戦争の道具として生命を落とすのも、“名誉”の戦死として扱われる分には格好が付く。 だが肉体そのものを――成熟未成熟を問わず――貪られたなら、 その果てにあるのは、必ず、望まざる生命一つ抱えて放り出される未来か、 もしくは、異種を汚すことに抵抗のない好事家の慰み者として囲われる未来のいずれかだ。 そうして生まれたものは――結局、いずれの世界にも馴染めぬ放浪者となる。 いかな愛があったとて、容易ならざる生を強いられる存在である。 快楽のため、一時の愉悦のために、そんなものを作り出すのは避けられるべき―― が、それは逆説的な涜聖の喜びを燃え上がらせるだけのことだ。 響界種――そう呼ばれる、永遠の受難を約束された呪われし忌み子は、 ただ親の尊厳を傷つけ、踏みにじるためにこそ作られたとき、最も効果を発揮する。 気高く、美しく、優秀で可能性に満ち溢れたものが――単なる一匹の獣に戻されるとき、 それを見るものは、彼――もしくは彼女の全てを手にしたような高揚を得るのだ。 召喚という非人道的な仕組みと性産業が交わった時、そこに生じるものは何か。 見目の整った異世界の住人を絶対服従の性玩具とし、それを買わせる娼館か、 あるいは、あえて二目と見れない醜い畜生を呼び寄せ――それと人を交わらせる、 見世物小屋のようなものであろうか。いずれにしても、することは同じだ。 そして後者に従事するような女には、相応の背景があるものだ。 金か。裏切りか。自分から堕ちてくるような物好きもいまい―― 誰が望んで、端金で鱗の生えて肌の色も違うような雄の仔を宿したがるものか。 泣き叫ぶ。助けを求める。そんな哀れな様をこそ、客は見に来るのである。 どこぞの学園の元首席。生意気な富豪の娘。裏社会に名の知れた刺客だの何だの―― そんなものが、けだものの精を胎に打ち込まれてぴくぴく痙攣しながら、 一年の後には醜い混ざり仔をひり出す。母親の人生に拭えぬ汚点を残す。 大きくなった腹をゆさゆさと揺らしながら犯されて――望んではいなかった仔を、 それでも本能か、彼女らは庇ってしまうのだ。破水しても犯され、やめてくれ、と懇願し―― 呆然として、臍の緒の繋がったままの赤子に視線だけを投げる姿は、実に美しいものだ。 一方で、自ら雄を誘惑し――胎に、望まれざるものを望んで宿そうとする淫乱な雌もいる。 破滅願望であろうか。自己嫌悪の変奏か?それとも異形の仔を産む運命になった己に対する、 自己憐憫と悲劇への愁嘆依存症にでもなっているのであろうか。 彼女の表情からはそれが読めなかった。恋人にでも向けるような甘えた目つきで、 名も知らぬ、異界より種付けのためだけに喚ばれた異形の雄の上で、腰を振る。 そして種付けが済めば送り還す――その行為からは、種を蒔いた雄に対して、 孕むべき側の雌が求めて然るべき、責任、というものが完全に欠落しているように思われた。 何人も――何匹もの雄と交わり続け、種を無防備に胎に受け入れて、 結局、孕むのも産むのも――彼女本人である。苦しみは全て、彼女自身に帰結する。 だというのに、淫靡な微笑みを湛えた顔には、己の胎が膨らむことへの恐怖は欠片も無い。 観客席に向けて、女は陰唇をひくつかせながら、咥え込んだものによって広げられ、 やがて赤子をひり出すことになる膣口を見せつける――美しさと悍ましさの同居した赤。 一方で薄紫の面布は、その下で柔らかく曲がる唇の艶めかしさを強調していた。 むき出しになった大きな乳房、締まった鼠径部。つやつやとした黒い生地の、長手袋と長靴下。 ご丁寧に踵の高い靴まで履いて、己の肉体が売り物にも見世物にもなると熟知している。 その均整を、醜い獣の仔で歪ませてやろうというのだ――いかな経緯によってか? 倍近くもある背丈の、緑色の肌をした巨漢に抱えられた彼女は、 まるきり幼子が厠で親に抱えられているのと同じ格好である。 ただ――その尿が垂れるべき穴は、太く黒々とした彼の性器に塞がれていて、 身体ごと揺さぶるような激しい抽挿によって、赤い髪はばさばさと散るのだった。 眼鏡はその振動に耐えきれずにするりと抜けて落ちて――床の上で高い音を立てる。 結合部からは、彼の前に喚ばれた四つ足の何某の残していった精液の泡だったものがあふれ、 奥から垂れてくる愛液、尻をべったりと濡らす汗と混ざって、異様な姿を呈している。 ほとんど暴力に近いその腰の動きによって、女は明らかに興奮しているのだ。 やがて――巨漢は耐えきれずに精を吐く。故郷にいる幼馴染の妻以外の胎内に。 自由意志が阻害されているとはいえ、そのことは彼の心を酷く傷つけるものであった。 しかし文句の一つも言う暇はない。彼の身体はここに連れてこられた時と同様光に包まれ、 あっ、という間に元いた世界へと送り返されてしまっている。 女は手品のように雄を出したり消したりしながら――胎へ精を受け取り、 また別の雄を呼びつけては、自分を凌辱するように命じるのである。 手足の数も、肌の色も、生えているものも、身体を構成する物質さえも――何もかも違う。 ただ雌雄に共通する言語、粘膜接触だけを、彼女は求めるのであった。 その淫らな様を、男たちは嗤った。どんな雄にさえ媚び、溺れていくのを。 その浅ましき様を、女たちは嗤った。隣にいるどこぞの資産家に腰を抱かれながら。 かつてら軍属で将来を嘱望され――教鞭を執り、何人もの有能な生徒を育てたとかいう―― そんな女が、今では子宮仕事をしているのだ。その喉から、喘ぎ声と、召喚の術式と、 赤子をひり出す際のいきみ声以外のものを聞いたものは、誰もいない。 腹が大きくなっても、彼女のすることは変わらず――どこかの世界の誰かに、 産婦相手だろうが遠慮せずに腰を振れ、との命を下して色に耽るのだ。 大きな乳房がいっそ千切れそうなほどに跳ね回って母乳の雫をあちこちに飛ばす。 観客は己の顔の上に生温い白の落ちても、怒るどころか笑うだけだ。 それよりも、太い性器を臨月胎に咥え込んで――喘ぐみっともなさの方が面白いから。 交尾の様を散々に見世物にしたあとで――女はさらに、自身の股関節を開き、 客席の連中から赤子の頭がよく見えるように、身体の向きを調整する。 店内では、彼女の産む赤子がどの世界からの来訪者達の種によるものか、 髪の色は、肌の色は、鱗、角、羽、尻尾、何が生えているか――そんなことを賭けの種にする。 孕んでいる本人すら、どの種が当たったのかを自覚的に知ることはない。 どのような子が出てくるかを――あたかも他人事のように喜びさえもする。 赤黒い紐にて自分と繋がったそれを、子供が贈り物でも受け取ったかのように抱え上げ、 どの種族の種にを確かめるその瞳には、彼女の失ったはずの知性が覗いていた―― だからこそ、より残酷なのである。仔の末路を、彼女自身知らぬわけもあるまいに。 なぜ、ここにいるのか。なぜ、こんなことをしているのか。なぜ、なぜ、なぜ―― 問いをいくら投げ掛けたところで、女は妖しげに微笑んで全てを誤魔化してしまうだろう。 当てつけのように巨大で凶暴な獣を呼び寄せ――それと交わる様を見せつけるだろう。 罅の入った眼鏡越しに、睨むように客席に――見下した視線を向けるだろう。 かつての彼女の衣装を模したそれを――わざと闇に染めたような黒い舞台衣装は、 店内の安っぽい光など吸い込んでしまう。脱ぎ捨てる瞬間、世界が全く冥くなる。 その時の――ほんの少し動転したような、客たちのみっともない姿といったら。 女は彼らをこそ、嗤っていたのかもしれない。