30VSおほむ@ライダーレコード ///////// 「さて、これでほむらちゃんとはお別れですかね」 ワルプルギスの夜が討たれてから少し経った頃、ようやく一段落着いたという事で開かれたパーティー。その終わり際のこと。 私の第二の親友を名乗る彼女は唐突に、こちらに掌を向けながらそう言った。 「お別れって、もう帰るのかしら?」 まだ片付けも残っているのに、などと私は敢えて韜晦してみたけれど、彼女の意図はそのジェスチャーからして明らかだった。 「……帰るのはほむらちゃんの方ですよ」 そう言って彼女は、なおもこちらに手を差し出す。まるで何かの返却を促すように。 「ランペイジのキーとアークドライバー、返していただけますよね?」 「…断る、と言ったら?」 「……ここではなんですし、一度表に出ましょうか」 悲しげに瞑目した彼女が、それでも黄と黒のドライバーを手に執ってこちらを睨めつける ////////// 「さて、ここなら大丈夫ですね」 歩くこと数分、あの騒動で開けた土地になってしまったエリアで、彼女は立ち止まる。 「もう一度言います。キーとドライバーを返して下さい」 パーティー会場から少し離れたここまで、私たちと合流してからの僅かな期間の思い出を楽しそうに…それとも噛み締めるように話しながら歩いてきた彼女が。 「返さなければ……後悔することになりますよ、必ず」 きっと誰にも見せたことのない、超然とした顔で迫る。 「悪いけれど、断らせてもらうわ」"アークドライバー!""Rampage-Bullet!" それでも、今この力を手放すわけには行かない。 「そうですか……なら」"Force Riser!""Jump!" 主張は平行線。きっとどちらかが折れるまで、交わることはない。 「きっとまたこの力が必要になるもの!」 「剥ぎ取ってでも返してもらいますよ!」 "All-rise!""シンギュライズ!" "Force-rise!" マンモス、チーター、ハチ、トラのライダモデルが蝗の竜巻に飛び掛かっては分解され、返す刀でこちらを巻き込むように広がる蝗害をホッキョクグマ、サソリ、サメ、ゴリラが迎撃しながら自己崩壊する。 こちらへ向けて勢いよく放たれたパーツを弾き返したオオカミとタカのライダモデルが対消滅するのと同時に、打ち返されたそのパーツ…特徴的な緑黄色の装甲が彼女の身体に接続された。 "Gathering round! Rampage-Gatling!!!""The power of these Progrisekeys gather for the great power" "Jump to the sky turn to the Rider-Kick!""Break down!" 崩壊から生まれたライダモデル10体分のエネルギーから再構成される私の鎧、アークバルカンが完成するより早く、 「すみませんが最初からクライマックスで行かせて頂きましょう」 "Rising Distopia!!" 目の前から消え去る001、反射的に真後ろへ振り向こうとして 『違うな。9時方向、仰角60度』 私の意思とは無関係に動いた右腕が、迫る一撃を弾き飛ばす。 『例え貴様が相手でも、こちらの予測の方がが上だ』 アークによる自律的迎撃動作、二人三脚の仮面ライダー。それが今の私、アークバルカン。魔法少女に身体的にも反射神経でも劣る私が一線級で戦うには無くてはならない補助輪だけれども、その事をどうこう思う余裕はどこにもない。 「意外ですね、あなたがそちらへ着くとは」 『不可解。この状況で静観する理由こそ薄いはずだが?』 必殺技を起動した状態での高速機動、飛び蹴り、反撃から身を翻して私の追撃を回避。きっと生身なら赤黒い稲妻と黄緑の残像しか見えないその動きさえ、今の私には手に取るようにわかる。 「あなたはほむらちゃんを気に入っている、と思って居たのですがね!」 『此方の台詞だ。貴様はこの少女を好ましく思っている、と記録にあるが?』 それでも、攻めきれない。 アークが行う毎秒数億通りの事象演算に基づく私の攻撃を、001は紙一重で避け続ける。 どころか、すれ違いざまに一撃入れられたのも一度や二度ではない。 「なればこそ!」 "Rising Utopia!!!" 彼女が更に加速、きっとこちらの最も反応しにくい方位から一撃を叩き込むつもりのはず。…それなら! 「わたしたちにはお別れが必要なのですよ!」 ラ イ ジ ングユートピア! フェイントにブラフ、欺瞞軌道にライダモデルのデコイやアルミ片とECMまで駆使して最終コースを隠し通した001たる彼女は、しかし最終的にはむしろ真正面から突入、見事私にその飛び蹴りを食らわせた。 アークの演算を瞬間的にとはいえ飽和させた結果、私たちは私だけの判断で迎撃する羽目になった。そうなれば自然と後にばかり気を取られて、肝心の真正面こそ意識が手薄になる…そこを突く彼女の判断は、私の胸部へのクリーンヒットという形で証明された。 "悪意、恐怖、憤怒""Power Rampage!" もちろん、証明されたのは直撃させるまでの正しさだけ。 「捕まえた」 "Rampage Power! Conclusion""Larning three" 直前に起動した重量級ライダモデルによる防御強化状態で受け止めた私の前には、全ての運動エネルギーを失った哀れな飛蝗が1人。 「これで負けて頂戴」 掴んだ右脚を起点に振り回し、3度地面に叩きつけて… ランペイジ イ パワー! ジ  コンクルージョン ングユートピア! 3度目で手放した彼女に、空中前転からの踵落としを叩き込む! 舗装が砕けてクレーター状に陥没した地面に半分ほど埋まった彼女を見てやりすぎたかと心配になったけど、 「っぐ、流石に、キますね、これは……」 立ち上がりながらフォースライザーのレバーに手をかける辺り、彼女は随分と頑丈らしい。 「勝負はついたでしょう?貴方らしくないわよ、往生際が悪いのは」 『人間向けのリミッターを外したフォースライザーは身体に多大な負担をかける。そろそろ止めておけ』 「へへ……生憎と、往生際が悪いのはむしろわたしの本性でして……ね!」 不意を打っていわゆる腹パンをしてきたけれどもやはり力が入っていないし、当然この程度のパンチでフォースライザー本体を握る私の手が緩むこともない。 「あぁ、やっぱりダメでしたか……ですがほむらちゃん、無理を承知で言いますが……キーとドライバーは返して下さい」 ようやく諦めたのか、全身の力を抜く彼女。私がフォースライザーから手を離せば、きっとそのまま後ろへ倒れ込むだろう。 「神浜を舞台としていろはさんを中心に繰り広げられる騒動は、今後より一層の激しさと陰惨さを増すこととなるはずです」 「ええ」『だろうな』 「そこに、魔法少女でも神浜市民でもないほむらちゃんが関わる義理も責任もありません」 「そうね」『かもしれん』 「だから、ほむらちゃんは戦わなくて良いんです。キーもドライバーも必要ない、持たなくて良いんです!普通の生活に帰れるんですよ!」 無理矢理に上半身を起こして私の両肩に掴みかかる彼女は、変身しているというのに簡単に引き剥がせるくらい弱々しかった。 だからこそ。 「その魔法少女でもない私だからこそ、出来ることがあるはずよ」 『陰惨な戦いが起きると知ってなお見過ごすのは、唾棄すべき悪だ』 私の、私たちの立ち位置と覚悟を。ここではっきりと示しておくべきだと思う。 「……はは、唾棄すべき悪、ですか」 何故かアークの言葉が致命傷だったらしい彼女はそのままこちらへもたれ掛かり、 「それを言われたら……わたしからは何も言えないじゃないですか」 大きなため息を吐きながら、変身を解除した。 ///////// 「あぁもう、わたしの負けです!」 手も足も放り出して大の字に寝転ぶ彼女が叫ぶ。 「わかってましたとも!どうせほむらちゃんはほむらちゃんなんですから、力があったらなんだかんだ見捨てられずに助けに行っちゃうって!激痛リミッターつけててもフォースライザーを多用しちゃうんですから!そりゃそうでしょうとも!!!」 『今更過ぎるな、あまりにも』 「えぇ。私にあなたと『仮面ライダー』を送り付けておいて随分と今更で勝手な後悔よね」 『…そういえばアレが私の創造主ということになるのか』 「それこそ、『今更』じゃないかしら?」 『嫌なことを思い出させてくれる…』 「まぁでも、悪くも愚かでもないのは確かよね」 『思っているほど賢くも無いがな』 「好き放題言ってくれやがりますねアークぅぅ……こうなったら路線変更です、ほむらちゃんもアークも、全力で働いてもらいますからね!全てはハッピーエンドとその先の未来のために!まずは精密部品加工分野で法人化、そしてライダモデル射出システムの実用化です!わたしたちが社長で仮面ライダーだぁ!!!」 「…前言撤回、ひょっとしたら愚かかも知れないわ彼女」 『創造主とは言うが、コレでは贋作家だな』 ///////// 「ところで何故寝転がったままなのかしら?」 「そりゃ当然フォースライザーにオーバーロードさせまくった反動で全身筋肉痛だからですよ」 『だから止めておけと言ったのだが…』