あらすじ 浮上した天沼矛。 ほむらは鏡花の元に突撃したものの拒絶され、天沼矛の上層部に飛ばされてしまう。 彼女は再び母親の元に向かうことを決めるが、それと時を同じくして、鏡花の元にはある人物が現れていた。 ━━━━━━━━━ 「………やりなさい。」 鏡華がそう告げるのと同時に、ゴーレモン達は眼前の敵=名張茜に向かって拳を振り下ろす。 「待って!私たちは貴女を倒すためにここに来たわけじゃない!」 二人は咄嗟に飛び退いてそれを避け、鏡華に叫ぶ。 「あら、そう。」 彼女は興味なさげにそれに答え、クロスカドゥケウスを地面に突き立てる。 すると、幾本もの槍が錬成によって床から生え、茜たちを串刺しにせんと迫った。 「やはり…対話は厳しいようですね…!」 「そうねっ…!マトリクスエボリューション!」 それを避けた二人は融合し、テイマ忍─────サクヤモン:歩き巫女モードへと姿を変える。 彼女はゴーレモン達を短刀で切り裂きながら、鏡華へ接近しようとする。 「はぁ…低級な錬金人形では、あなたを殺すには物足りなかったようね。」 彼女は軽く杖に力を込め、ゴーレモンたちを上位の錬金人形へと進化させた。 「ブラストモン、その女を片付けて。」 ━━━━━━━━━ 「ふむ…これは…困ったね。」 エルダーさんはセキュリティシステムの画面を見ながら、少しの間考え込んでいた。 「どうしたんですか、エルダーさん?」 「ほむら、体力に自信はあるかい?」 「え…まあ…普通…ぐらいだと思いますけど…」 最近は授業もあんまり取ってないから外出減っちゃったけど…多分、そこまで体力は落ちてないはず。 「エレベーターへの送電が停止されている。研究区画まで…階段で降りる必要がある。」 道のりがどうであろうと、私に行かないという選択肢はなかった。 なかったけど…正直、もっと楽な道がよかったなぁ… ━━━━━━━━━ 「変移抜刀!」 「ウガァァ、ア、ア…!」 いくら倒そうとブラストモンの数は減らず、いくら分身しようとその数以上に敵が造り出される。 「はぁっ…ッ!」 無から有を作り出し、万物を錬成する。 至高の錬金術師の力に、茜は消耗を強いられていた。 「これじゃ…アレも使えない…!どうにかして隙を作らないと…」 実のところ、彼女はその力への対抗策を持っていた。 しかし、今のままではそれを行使することもままならない。 「…私にも娘が、子供がいるわ!みんな可愛い…それこそ目に入れたって痛くない!」 茜は叫んだ。 「命乞いかしら?なんの意味もないわよ。」 「貴女にとってもそうなんじゃないの!?ほむらさんは!」 その叫びは隙を作ろうとして放たれたものではあったが、それと同時に、同じ母親としての想いの発露でもあった。 「…あなたに何がわかるって言うの!!私は…私はずっと…罪を濯ぐ為に罪を重ねてきた。あの子を見るたび…私は私の罪を思い知らされる…!」 鏡華の意識が錬金人形の制御から一瞬逸れる。 茜はその隙を見逃さなかった。 無数のブラストモンの間をすり抜け、鏡華の間近でレナモンと分離する。 「しまったっ…!」 「カードスラッシュ!自動感染プラグインL!超進化プラグインS!」 彼女は瞬時にアークにカードを読み込ませる。 「レナモン超進化!タオモン!」 レナモンはタオモンへと姿を変えると同時に、符を放った。 「水銀結界…展開!」 タオモンの陰から大量の銀色の流体が噴出し、それは瞬く間に当たりを覆い尽くす。 制御を失ったブラストモン達は糸が切れた人形のような妙な動きをし、ゴーレモンへと退化しだした。 「錬金術では私たちは貴女に遠く及ばない。それはわかりきっていました。」 タオモンは冷静さを保ったまま続ける。 「ですが…『練丹術』であれば、そこは私たちの領域です。」 くまなく広がった銀色の流体…水銀が、鈍く輝く。 「私とドウモン…二人で組んだ錬成式、味わってもらいます。」 彼女がそう言うのが早いか、拘束具へと形を変えた水銀が鏡華の自由を奪う。 「何よ…これっ…!」 錬金術はさらに効力を失い、ゴーレモン達は土塊へと還り始めていた。 「鏡花さん、お願いだから…大人しく私たちに従って。」 「………」 鏡華は口をつぐんだまま、目を瞑っていた。 「ほむらさんに頼まれて、貴女のことを調べて…。放って置けなかったの。他人事とは…思えなかった。」 茜の言葉は、鏡華には届かなかった。 「………他人の事情に立ち入って…!上辺だけ見て知った気になって…!!勝手に憐れんで…!!!あなたみたいな人…本当に嫌いよ!」 彼女がそう叫ぶと同時に、結界に異常が生じ始める。 「水銀が…侵されている!?」 「あなた…愚かね。私の力を分析して、封じられたと思い込んでいたようだけれど…。甘いのよ…!私の力が…錬金術だけだとでも?!」 水銀に囚われ、身動きの取れなくなったはずの鏡華の右手に、ドス黒い瘴気が纏わりつき始める。 「ナザル…ディザスター…!」 瘴気は水銀を腐食させ、やがて彼女を枷から解き放った。 「あれは…リリスモンの…!?」 鏡華が行ったのは、自らの体に融合させたデジモン達の能力行使。 それは結界で封じられることがなかった。 「あなたたちにはここで死んでもらう。付け焼き刃の錬金術で…私に勝てると思うな!!!」 鏡華はそう叫び、クロスカドゥケウスを両手で構えた。 「アルケミストクロス!」 土塊と化したゴーレモンたちの残骸、そして腐食した水銀。 それらを綯い交ぜにし、デジクロスさせ、再錬成する。 「万物は我の下僕なり。我が下僕よ、我が意に従い、我の力となれ…!」 いつしか一体となったそれらは、鏡華の背後に浮かぶ、巨大な一対の腕となった。 「錬成完了…ピラミディモン!」 彼女の錬金人形が到達しうるもう一つの究極点。 鏡華はピラミディモンの腕を自らの延長とし、直接茜を叩き潰すことにしたのだった。 ───────── 「動くな!!」 「──!」 ほむらたちが鏡華の元へと向かう途中、その背後に二つの影が現れた。 「お前達も侵入者か…!ガーゴモン!」 その男はスレイヴ型デジヴァイスを操り、ガーゴモンを差し向けようとする。 「ち…違います!私たちは…」 「じゃあなんだって言うんだ!FE社の警備を舐めるんじゃない!お前のような人間の入構記録はなかった!お前も侵入者だろう!」 ガーゴモンは牙を剥き出しにし、男はライフルを構え、引き金に指をかける。 「やめたまえ。私は金行次席、八重練・H・鏡華のパートナー、エルダーワイズモン。彼女は次席直属の部下だ。そのような対応は君の人事査定に響くぞ。」 エルダーワイズモンは男の前に割って入ると、そう言って制止した。 「そ…そうでしたか…。なにぶんこのような緊急事態ですから…申し訳ありません。下がれ、ガーゴモン。」 「…ちょうど良い。君、ここの構造は熟知しているね?彼女を金行の研究区画まで連れて行ってくれたまえ。ほむら、ブラックシャウトモン。私はここの回線を通って先回りする。」 「おい待てよエルダー!……行っちまった」 ほむら達が制止する暇もなく、エルダーワイズモンはその場から消えて行った。 「…行っちゃった」 「はぁ…オイ、お前ちゃんと案内してくれんだろうな?」 「お偉いさんの命令には従うよ。ついてこい。」 歩き出した男に、ほむら達はついて行った。 「…悪かったな、さっきは。すまない。」 「いえ、そういう仕事なんですもんね。えっと…」 「三浦だ。まぁ…警備員の名前なんて覚えても仕方ないけどな。…アンタ…スレイヴ使いじゃないのか。さすが、エリートは違うな。」 三浦と名乗ったその男は、ほむらの手首を横目で見て呟いた。 (シャウトモン、スレイヴってなんだろうね?) (俺様が知るわけねぇだろ…それより、お前ってエリートだったのか?) (うーん…どうだろ。確かに就活の時は幹部候補とか言われたかも。) 二人が小声でそう会話を交わしてからしばらくすると、三浦は足を止める。 「確か…金行の研究区画はこの階だ。アンタら…一体ここに何しに───────── 彼がそう言っている途中、建物全体に衝撃が走った。 「きゃっ!!」 「なんだっ!!?」 彼らは知る由もなかったが、これは天沼矛の中央シャフトがマーナガルルモンによって破壊されたことによる衝撃だった。 それはつまり、スレイヴ型デジヴァイスが機能不全に陥ることを意味する。 「トケ…タ…?」 「お前…今しゃべ「トケタトケタトケタトケタトケタ!!!!」 ガーゴモンは、目の前にいた憎き人間に襲いかかった。 「う…うそ…!三浦さん…!」 「見るなほむら!…見ねえ方がいい。」 悲鳴を上げることすらなく殺された彼の死体は、大部分をガーゴモンに食いちぎられ、見るも無惨な状態になっていた。 「オマエも…ニンゲンか…!」 純白であった体を血で真赤に染めた彼女は、二人の方へと向き直る。 「テメェ…どうしてソイツを殺した。パートナーじゃねえのかよ」 シャウトモンは問いかけた。 「パートナー…?コイツは自由を奪い…私を道具扱いした…!コイツだけじゃない!この会社のニンゲンは皆そうだ!!」 「…そうか。でも、コイツは関係ねぇ。ソイツ殺して満足したろ。俺たちを通してくれ。」 「オマエはニンゲンの味方をするのか!だったらオマエも!!」 「ブレイクロッカー…!」 襲い掛かろうとしたガーゴモンの頭に、すれ違いざまに一撃。 「ぐ……!あ…。」 彼女は地面に倒れ伏した。 「さっさと行くぜ、ほむら。」 「……うん。」 二人は死体から目を背け、足早にそこを去った。 ───────── 「はぁぁぁァ゙ァ゙ァ゙!!!」 茜に向かってピラミディモンの拳が放たれるが、かわされたそれは床に当たり、破片を散らす。 「退却すべき…?いえ…でも…」 鏡華が操る巨大なピラミディモンの腕は、俊敏性に優れるサクヤモン歩き巫女モードを捉えきれなかったのか、研究施設の壁や床を穴だらけにしていた。 「どうしたの?かかってきなさいよ…殺す気がないなら…最初からこんなところに来ないで!」 「わかったわ…だったら!」 茜は自らの分身を作り出し、一人は壁を蹴り、一人は地を走り、一斉に鏡華に肉薄しようとした。 「…今ね。」 鏡華はクロスカドゥケウスに力を込め、破壊されていた床や壁を一気に修復する。 分身達は復元していくそれらに巻き込まれ、動きを封じられた。 彼女はそのためにわざと辺りを破壊していたのだ。 「アペシュイカーブ」 ピタミッドを叩きつけられ、分身達はなすすべなく消滅していく。 しかし、それですべてを排除できたわけではない。 「はぁっ!」 「…!まだいたのね」 間近に迫られるとピラミディモンの腕は使いにくい。 彼女は杖を使い刀を防ぐ。 しかし、近接戦闘においては鏡華よりも茜の方が明確に勝る。 「変移抜刀!」 その太刀筋は、鏡華を捉えた。 「ぐぅっっ…!」 切り落とされた角の先端が落ち、砕け散る。 「………もうやめましょう、鏡花さん。」 怯んだ彼女を前に、茜は刀を下ろす。 「やめよう?やめようって?…私が今までどれだけの人間を素材にしてきたと思ってるの?」 「今ならまだ償いを─────「もう遅いのよ…何もかも!戻れるところなんてとっくの昔に過ぎた!ここで研究をやめる選択肢なんてない!」 彼女は無防備な茜を突き飛ばし、ピラミディモンの腕で掴む。 「このまま死んでしまいなさい。…大丈夫、私の研究が成就した暁には…あなたも蘇らせてあげる。」 茜を握りつぶそうとする鏡華。彼女が操っていた両腕が、不意に崩壊した。 「いい加減にするんだ、鏡花。」 エルダーワイズモンが、彼女の錬金術に干渉したのだ。 拘束を解かれた茜の体が宙に浮く。 「…ワイズモン…!あなた、その体!」 鏡華は彼を一目見て、その体がどう言った状況なのかを理解した。 「もうすぐほむらがここにやってくる。私は…彼女に話がある。」 彼は茜と共に、空間錬成を使い消えていった。 ━━━━━━━━━ 「………っ!」 鏡花が一度繋げたルートをなぞったとはいえ、流石にこの体で空間錬成を使ったのは不味かったか。体が悲鳴をあげているのを感じた。 「エルダー…ワイズモン…!」 名張茜はいつの間にかマトリクスエボリューションを解除していたらしい。 目の白いレナモンが護符を構えながら、私に向け戦闘姿勢をとっていた。 「君たちに鏡花を救うことはできない。彼女を救うことができるのは…ほむらだけだ。…君たちは、鏡花を裁きにやってきたようだね。」 「……ええ。…彼女は沢山の罪を犯したわ。」 「裁かれるべきは鏡花ではない。私だ。鏡花に錬金術を教え、人体錬成のヒントを与え、死者蘇生の実験にも協力した。」 私は手を広げる。 「全ての責任は私にある。君たちは全ての元凶である私だけを裁けばいい。…私を殺せ、名張茜。」 「殺す………エルダーワイズモン、あなたは既に"生きていない"のではないですか?」 レナモンはそう言った。 そういえば彼女には錬金術の知識があったな。見抜かれてしまったか。 「…レナモン、どういうこと?」 「エルダーワイズモンのデジコアは既に機能していません。しかし、それを錬金術によって代替することで動き続けている。それが彼の正体です。そうですよね、エルダーワイズモン。」 「ああ、概ね正解と言っていい。」 私の体は既に限界を迎えていた。 「さぁ早く殺せ。君たちが私に容赦する理由はないだろう。」 この命を鏡花のために使えるのであれば、それで悔いはない。 「……わかったわ。」 彼女の刀が、深々と私に突き立てられる。 「ぐぅぅっ…!」 ───────── 「ねぇワイズモン、デジモンってなんなの?」 「デジタルモンスターの略だ。元は人工知能を持ったコンピューターウイルスであったらしい。戦い、学ぶ事でデータを取り入れ、進化する。そういう生き物だ。」 「へ〜!ワイズモンはまだ進化するの?」 「ああ、私はまだ完全体だ。君が生き、成長していけば、私もまた新たな姿に進化できるかもしれないな。」 「ふーん……ねぇワイズモン、デジモンは死ぬの?」 「ああ。長く生きたデジモンのコアは劣化し、処理性能が低下する。そうなったデジモンは寿命を迎え、消滅する。そうでなくても、致命傷を負えば消滅する。人間と同じだ。」 「そっかぁ…」 「だが悲しむ事ではない。デジモンは消滅する間際にデジタマを残し転生できる。ある意味、デジモンは死ぬ事のない生き物だ。」 「…ワイズモンもいつかは居なくなるんだね」 「私が消滅しようと、次の私が君と共にあるだろう。鏡花、君という人間を一人にしてしまうのはもったいない。」 ───────── 不意に、遠い昔の記憶が脳裏に蘇った。 面白い。デジモンも走馬灯というものを見ることができるのだな。記録できないのが残念だ。 私はデジタマに戻れそうもない。 君を一人にしてしまうことになりそうだ。すまない。 いや、もはや私がいなくとも、君は一人ではないな。 …鏡花。君が消えぬ十字架を背負ってしまったのも、こんなことになってしまったのも…私のせいだ。 だから…消えるのは私だけで良い。 君達は…幸せになってくれ。 ━━━━━━━━━ 「はぁっ…!はぁっ…!」 天沼矛の高度が落ちているらしく、全体が揺れている。 「早く…急がないと…!」 床にも揺れでヒビが入っているはずなのに、不自然なほどに綺麗な部屋があった。 そこは、さっき私たちがたどり着いた鏡華さんの部屋に他ならなかった。 「鏡華さん!!」 乱暴にドアを開け、私は叫んだ。 「…本当に、また来たのね。どうして?どうしてそんなに…私を…!」 机や棚のようなインテリアはボロボロに破壊されているのに、床や壁には傷ひとつない不気味な部屋。 その中に、鏡華さんは呆然と立ち尽くしていた。 「私は…ずっと愛が欲しかったんです。…親の、愛が。……だからです。」 「…もう一度だけ言うわ。私はあなたの母親じゃないの、出海さん。それ以上近づくなら、たとえ私の部下だとしても容赦はしない。」 彼女は、私たちに杖を向けた。 「…どうするよ、ほむら。」 「そんなの決まってるじゃん、シャウトモン。」 「ああ、だよな。」 私たちは一歩ずつ、ゆっくりと鏡華さんへと近づいていく。 「……来ないで。」 鏡華さんが作り出したデジモンが、私たちに襲いかかってくる。 「ブラックシャウトモン、進化!」 彼はラウドモンに姿を変え、相手の頭を掴んで握り潰す。 「…来ないで!」 向かってくるデジモンの飛ばしてきた結晶を、ラウドモンが音波で粉々に砕いた。 「来ないでって言ってるでしょ!」 全身が結晶で出来たトゲトゲしたデジモンを作り出す鏡華さん。 「ラウドモン、究極進化!」 彼がベルゼブモン:ライブモードに進化すると同時に、私はデジヴァイスValでフィールドを展開した。 辺りがステージへと変わり、聴き慣れた騒々しい音楽が流れ出す。 「今からここは…俺たちFatal Errorのステージだ!」 ベルゼブモンはギターで鏡華さんのデジモンをぶん殴ると、それをかき鳴らした。 すると、登場の演出かのように周りから炎が吹き上がる。 「えっ、何これ!?ベルゼブモンがやったの?」 「…わかんねぇ。気合入れたらなんか出たぞ」 「今のは…単属性の錬成…。初歩的だけれど…それを無意識で…⁉︎」 鏡華さんはそれを見て、驚きとも恐怖とも取れないような声で呟いていた。 「鏡華さんのおかげ…だと思います。私達が錬金術を使えるのも、シャウトモンがベルゼブモンに進化したのも、…今私がここにいるのも。」 「やめて!お礼なんて言わないで。私は…そんなことを言われる資格はない…!」 結晶のデジモンが私たちに向かって走り出してくるのをベルゼブモンは足で止め、その口に銃を突っ込みぶっ放す。 「こいつらは俺がなんとかする。ほむら、お前は…やるべきことをやれ!」 「わかった!」 私は雑魚デジモン達のことを気にするのをやめて、鏡華さんに集中することにした。 「やめて…。私は…あなたの顔だって見たくない!」 叫ぶ声に呼応して、大小の結晶デジモン達が私の行く手を塞ぐ。 「ベルゼブモン!」 「おうよ!こいつを喰らえ!」 彼の撃った弾丸は軒並みそいつらの足元に当たり、倒すまでは行かなかった。 …もしかして…撃つのヘタ? 「チィッ!やっぱりこっちの方が楽か!」 ベルゼブモンがギターを弾くと、今度は水がどこからともなく現れ、意識を持っているかのようにデジモンたちを絡め取って氷になった。 「今度は氷になっちまった…コード変えたからか…?まあいいか!ブレイクディアブロッカー!!」 粉々に砕け散るデジモン達。私の行手を塞ぐものはいなくなった。 私は走った。 まだ立ちはだかろうとするデジモンは残ってたけど、ベルゼブモンがなんとかしてくれると信じて、走った。 「鏡華さん!!!」 走って、飛びついた。 「なっ…!」 私は、バランスを崩した鏡華さんに覆い被さるような形になった。 「はぁ…はぁ…!」 「出海…さん…。」 「ほむらって…呼んでください…!」 「………そうよね。……意味わからないわよね…出海さんだなんて。だって…だって私も…出海鏡花なんだから。」 少しの沈黙の後、鏡花さんはそう呟いて────── 「………ほむら」 ようやく、名前を呼んでくれた。 「久しぶりね…あなたをこんなに近くで見るの」 鏡花さんは涙を溢れさせていた。 「ずっと…ずっと会いたかった…!」 「……ごめんね…!」 「会いたかったよぉ…!お母さぁん…!゙!゙」 私は泣いた。鏡花さんの胸の中で。 今までそう出来なかった分を取り戻すかのように、子供のように泣きじゃくった。 ━━━━━━━━━ 私を押し倒した彼女を間近で見て。 胸の中で泣き噦る彼女を見て。 体の奥の方から何かが湧き上がってくるのを感じていた。 彼女には血が通っていて、暖かくて。 私が造り出してしまったモノは、錬金人形などではない、人間だと言う事をひしひしと感じた。 …私はこの子のことがずっと嫌いだった。 その名を口に出すたび、その顔を思い出すたび、私は私の罪のことを嫌でも思い出すことになる。 目を背けていないと、自分の罪を認めている気がして苦しかった。 だから見放そうとした。忘れようとした。なのに、出来なかった。 名前を変え過去を封じ込めて、言い訳のように研究に没頭しても、この子の事を考えないでいることは出来なかった。 愛おしくて愛おしくてたまらなかった。 けれど、それを認めてはいけない気がしていた。 「…ワイズモンの言ってた通りね…。」 ああ…。私は、母親なんだ。 この子の全てを愛さずにはいられないんだ。 ようやく私はその事を理解した。 愛し方なんてわからない。愛を感じたことなんてないから。 それでも、私はこの子を愛したい。そう思った。 ……それだけに、この子の前で、いつものように自分をごまかし続けている悪人では居られない。 そうとも思った。 ほむらは、私にとってあまりに眩しすぎる焔だった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━