百戦錬磨の彼女にしては、それはあまりにも手抜かりなことであった。 男はにたにたと笑いながら、手元の端末をぎりぎり見えるような距離で左右に振る。 そこには本来、先に自分が確保すべき護衛対象が手錠と猿轡を掛けられた状態で映っていて、 彼の機嫌を損ねればこの人物が――並びに、その救出依頼を引き受けた彼女の名誉をも。 要求は明白だ。歯茎まで見せつけるように笑いつつ、乳房を鷲掴みにしてきたのだから。 荒事に慣れていると、ふと彼女は自分自身の女性的魅力について無頓着になる。 分厚い重金属の中に押し込めた雌性が、どれだけ雄の繁殖欲を煽り立てるかを知らない。 子供の頭ほどある片乳は、男の大きな掌にもなお余るほどの重量感を持っている。 女は、舌をちろちろ振りながら口付けを要求する不細工な面を――碧い瞳でじっと睨んだ。 男はその粗暴な見目に反して、臆病とも言えるほどに幾重にも警戒を重ねていた。 彼の視線の届く範囲から離れることは許されなかったし、当然、武器は全面禁止。 鳥人族の遺産である重金属の鎧を纏わなければ、彼女の身体能力は生まれつきの、 地球人種の範疇に収まるものだ。遺伝子的な改良を後から加えられているとはいえ。 それでも不意を突けば、男一人の首をへし折る程度のことは容易いのだが―― 男はまず最初に、自身の生命反応と画面内の雷管は連動していることを告げていた。 かといって、会話で彼から場所を聞き出すこともできない。外部との連絡など言語道断。 男はねちっこく、彼女の唾液の一滴一滴までをも吸い尽くすように歯列に舌を這わせた。 その代わりに、己の唾液を塗りたくるような――自身の優位を誇示するような。 その間も、両手はそれぞれに大きな乳房を服越しにもちもちとこね回し続けていて、 青い布地にぐっと押し込まれたそれは、砲丸かとも見紛う重たげな回転を繰り返す。 そして、その肌着が女の肢体をそのまま写し取るかのような薄い生地なのをいいことに、 乳首のぷっくりとした段差を指の感触だけで探るかのごとく、執念く弄り倒すのだ。 その刺激はゆっくりと、彼女の身体の内側に熱として変換されて溜まっていく―― そして唐突に、男は服の隙間に指をかけて引き裂くように脱がせながら、 中から溢れだした白く透き通る肌に、爪の先を軽く擦らせながら跡をつけていく。 先端がなぞった轍が、そのまま残るほどの美しく滑らかな肌に――男は生唾を飲んだ。 その上、口付けと胸への愛撫は、望むと望まざるとに関わらず、雌の肢体を火照らせる。 乳房の裏側に集まっていた汗は、べったりと彼の指に粘りつくようにして、 目の前の極上の雌が、肉体的にゆっくりと仕上がりつつあることを伝えていた。 同じように、先ほど指の腹で丹念に探った広い乳輪の段差もくっきりとそこに現れて、 さらにその先端、大きな乳房の重量に見合っただけの立派な乳首の輪郭を、 男は指でなぞりながら――これじゃ俺たちの餓鬼が困るだろうな――そんなことを言った。 素直にそのまま孕まされてやるほど、彼女は諦めの早い女ではない。 寝床に押し倒されて臍下にぺちぺちと彼の勃起しきった性器を当てられても、 種付けに対する謝辞を述べさせられても、じっと反抗的な態度を崩さない。 やれるならやってみるがいい――と言わんばかりの目つきは、なお男を興奮させた。 そんな顔をしていても、陰唇は自然と交尾の前の熱気に酔ったようにひくつき、 肢体が雄を求めているのだ、ということは隠しようがなかったからである。 男は最初に己の性器をしっかりと彼女に見せつけておきながら、挿入自体は引き伸ばした。 やはりねっとりと口付けをしながら、手で彼女の膣口の広さや柔らかさを探ったり、 あるいは乳房をこね回しながら、その突端を急に捻り上げてやったりもする。 その程度で堕ちるほど彼女の心は弱くないのだが――懸念事項としては、 人質の無事が未だ確認できていない状態にあるのは、看過できなかった。 早くこいつを満足させて、急いで救出に向かわないと――その感情が全てである。 自ら股を開き、男の喜ぶような文句を並べ立て、挿入をねだる―― それが彼女の真意でないことは、当然彼も承知の上だが、これで形式上は、 銀河最強とも言われた女賞金稼ぎが、三下の悪党の種を懇願する言質は取れたのである。 彼がまたこの発言や録画を悪用することは目に見えていたが、背に腹は代えられない。 ――これが彼女のしでかした、もう一つの手抜かりだった。 彼女はまだ、男が自分を本気で孕ませようとしているということへの想像が足りなかった。 美しい肌、大きな乳房、尻、流れるような金髪と、透き通るような碧い瞳―― そんな極上の雌から、たとい言わせたとしてと孕ませてくれとねだられたなら、 雄がどれだけの独占欲と執着心に捕らわれるかを、そうさせるかを自覚していなかった。 “初夜”は子宮いっぱいに、彼の精子を並々と注がれてなお終わらなかった。 彼女を誘い出すまでに、彼の方とて“準備”していないはずなどなかったのに。 脚の感覚がなくなる程に彼に腰を叩きつけられてしまうと、分厚い尻を盾にする形で、 女はぐったりと寝床のあらゆる箇所にしがみつき、与えられる快楽に抗おうとした。 そんな付け焼き刃の抵抗も、的確に“いい”ところを見抜いてくる彼の腰使いによって、 少しずつ破壊されていく。体力では負ける自信もなかったのに――もう、動けない。 それでもなお、男は尻たぶに指を食い込ませて逃さないようにしながら、 時に速く、時に遅く、膣内をぐりぐりとかき回しながら抽挿を続けた。 頃合いを見て、監禁場所を吐かせて――そんなことができようはずもない。 膣口から噴水のようにこぼれる潮と精液の混合液の生暖かさや、 痙攣する陰唇のひくつきなどを、女はどこか他人事のようにも感じるのだった―― 彼からの監視が緩むような隙を見つけることもできず、女は抱かれ続けた。 いっそ抱かれていない時間の方が短かった――とも言えるかもしれない。 男は抜かりなく二人分の水と食料とを定期的に彼女との交尾部屋に送らせていたし、 食事の際もまた、女の乳房を弄ったり口移しで給餌したりと、休みを与えなかった。 入浴や排泄は言わずもがな。彼女が一人になれる時間も、ほとんどないと言ってよい。 さらに、眠る際も――きっちりと失神するまで抱き潰してから、腕の中に抱えて眠る。 がっしりと、その胸板に柔らかな乳房を包み込むように捕まえながら―― 途絶えた意識の中、相手の温もりに包まれつつ、体臭を至近で嗅いでいるうち、 女は当初憎悪しか抱かなかった彼への嫌悪感を喪失しつつあることに気がついた。 そしてそれではもう遅かった――ちょうどその自覚を見越していたかのように、 男はあのにたつき顔で、彼女に妊娠検査薬を手渡してきたのである。 男が買い出しから戻ってくると、従順になった孕み袋は自ら両脚を大きく開いて、 すっかり彼の性器の形を覚え込まされてしまったとろとろの膣肉を見せつけ、 使い込まれて色素の沈着した陰唇を指で押さえながら、挿入をねだって媚びた。 心身の変化を後押しするような肉体の変化のせいですっかり抵抗する意志を失った彼女は、 あの時と同じように、彼に対して種付けをしてくれるように心からの懇願をする。 ただ違うのは、既にそれが生って一年近く経った彼女の胎が臨月に到達していること。 その状態での種付けとならば――無論、“次”を見据えてのこととなろう。 膨らんだ腹にぺたぺたと性器を打ち当て、これが欲しいかと問う――女は泣きそうな顔で、 意地悪しないでください、早く――と上ずった声で雄の情欲を煽り立てる。 焦らしと媚びがそうして交わった瞬間に――ずぶり、と男は槍を突き立て、 浅くなった膣道を耕しながら、間もなくの出産に備えて“特訓”してやるのだった。 ひいひいと声を上げながら彼からの愛に溺れる彼女には、もう何も目に入らない。 一年前の映像を繰り返し流す情報端末の中のその顔が、本物であったかもどうでもいい。 ただ、早く産んで次を仕込んでほしい――そんなことばかり考えていた―― 既に気をやった彼女を見下ろしながら、男は出産予定日のことに思いを巡らす。 彼に巨万の富を生んだ一連の動画の締めくくりに――ひり出す映像は最適だ、などと。